ミャンマー国軍が「利益に反する」クーデターを起こした本当の理由
Why the Army Seized Power
国際社会ではスーチーのイメージは地に落ちたとはいえ、国民が彼女を熱狂的に支持していることに、国軍上層部はいら立ちを募らせたはずだ。兵士たちの間にまでスーチーの影響力が浸透することを恐れて、彼らがクーデターに踏み切ったとしても不思議ではない。
国民への根深い不信感
これは2つ目の要素につながる。先に述べたとおり、国軍は強固な結束に固執している。その理由は、自身の歴史的な経験と、国民に対する深い不信感に根差している。
国軍は今回のクーデターの名目として、昨年11月に行われてNLDが圧勝した総選挙が不正に行われたと主張している。ただし、ミャンマーの選挙は無記名投票のため、彼らの言う「不正」とは、軍政下で政権与党だった連邦団結発展党(USDP)ではなくNLDに、国軍内部から票が流れたことが念頭にあると、広く考えられている。国軍のように緊密で疑い深い組織は、内部にそうした反対意見が存在するという可能性さえ、非常に警戒するのだ。
キャラハンや、ミャンマー研究の権威ロバート・テイラーが『ビルマ国家論』で指摘しているように、この国では民族意識や宗教、イデオロギーのほうが国軍より人々の忠誠心をかき立ててきた。1948年に勃発した内戦では1万人以上の兵士が、軍を離脱してさまざまな勢力に流れた。
キャラハンはさらに、国軍の歴史を通して、現場の指揮官と参謀将校が緊張関係にあることに注目している。1962年の軍事クーデターの後に国軍は中央集権化を進めつつ、全国の地方軍司令部を2個から14個に増やした。空軍と海軍は、はるかに大規模な陸軍に従属する形になった。
国民への根深い不信感から、国軍は常に、反対勢力を抑止するために強力な統一戦線を示そうとしてきた。潜在的な内部分裂を反対勢力に悪用されることを恐れているのだ。
そうした懸念に全く根拠がないわけではない。2月1日のクーデター以来、警察官や兵士が離反してデモ隊に加わる動画がネット上で公開されている。ある動画では機動隊員が隊列を崩し、放水からデモ隊を守っていた。
さらに、国軍幹部の若い家族や国軍関係者の若い世代がクーデターに公然と異議を唱え、抗議デモに繰り出している。デモに対する軍の対応が比較的おとなしかったのは、少なくともこれが一因ではないかと多くの人が疑っている。