ゾウと共生する「優等生」のはずのスリランカに落第点?
かつてのスリランカではゾウが街中を練り歩く姿は珍しくなかったが(写真は2014年のゾウ保護強化を求めるデモ) Dinuka Liyanawatte-REUTERS
<ゾウと人間の衝突による双方の犠牲者は年々増加するばかり>
日本で獣害と言えば、クマ、イノシシ、シカだろうが、スリランカでは、ゾウと人間との共生をめぐる問題が年々大きく膨らんできている。
インド洋に浮かぶ小島のスリランカ。多くの魅力が存在する国だが、海で最大の動物であるシロナガスクジラと、陸で最大の動物のゾウを一カ所で見られる珍しい場所でもある。
現在スリランカには約7000頭のゾウが生息している。1万2000頭ほどだった20世紀初頭と比べると6割にまで減少している。ゾウの主たる死因は農民による射殺や毒殺である。
アフリカゾウの場合は、オス,メスの両方に付いている牙が目当ての密猟者によって殺されることが大きな問題だが、その点スリランカゾウの場合は7~8%しか牙がなく、個体数の激減はむしろ人間によるゾウの生息地である森の開拓に起因する。生息地を失ったゾウが食料や水を求めて人間が住む地域に出没することに伴う両者間の軋轢に加え、ごみの投棄場でプラスチックゴミを摂取することで多くのゾウが死亡している。
2010年以降、年平均240頭が人間によって殺されているが、2018年には360頭、2019年には405頭とその数は右肩上がりとなっており、スリランカはついに人間によってゾウが殺される数で世界1位となった。逆にゾウによって毎年殺される人間の数も比例して増えている。2018年96人だった死者が2019年には121人になっており、世界で2番目に多い(インドが1位)。両者間には憎しみに基づく報復の連鎖も確実に生まれている。
ただ今年に入って新型コロナウイルスに伴うロックダウンの期間があった関係でゾウと人間の衝突が減ったことで、この間、前年比ではゾウの死亡が40%程度減少。しかし、現在はいわば一時的な休戦状態であり、コロナが落ちついた暁には再び人間とゾウの生死をかけた戦いが再燃する運命にある。
神聖で崇拝の対象
もちろん、スリランカ政府はこの状況をただ黙って眺めていたわけではない。人間とゾウとの衝突を軽減するため、人間の生活圏とゾウを住み分けするための柵の設置や大掛かりなゾウの追い込みなどの策を講じてきた。民間レベルでも日常において人とゾウとの遭遇を避けた安全な通学などを確保のために「ゾウに優しいバス」なども導入した。
プラスチックゴミ摂取による死亡をなくすために、それまで自由に出入り可能だったゴミ投棄場の周りに堀を作るなどゾウを寄せ付けないための対策も進めている。むろん、ゾウの死因のみを意識している訳ではないが、今年の8月にはほとんどのプラスチック製品の輸入禁止、2021年1月からは使い捨てプラスチックを禁止する法律が施行される。
もっともスリランカではゾウ殺しは死刑(まだ執行されたケースはない)となっており、さらにはこの国で仏教が最大の宗教であり、釈迦は白象の姿で母胎に入ったという伝説や、2番目に人口の多いヒンズー教においてもゾウの頭を持つガネーシャ神がいるなど、スリランカ人にとってゾウは敵対というよりむしろその真逆で、神聖であり崇拝の対象であり、「国の宝」とまで言われることもある。
紀元前から連なる歴史、神話や宗教的に限らず、文化的にも政治にもゾウと人間の分かち難い関係を保ちたい反面、現状のこじれを改善する良案がいまだ見つかっていない。