最新記事

事件

インドネシア、パプア牧師殺害事件は捜査難航 「独立派記念日」12月1日に向け緊張高まる

2020年10月3日(土)21時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

急峻な山間地での捜査が続く事件現場 KOMPASTV / YouTube

<独立武装闘争が盛んなパプア地方で起きた殺人事件は、その地域性のゆえに捜査が難航>

インドネシアのパプア地方のパプア州山間部で9月に起きたキリスト教会パプア人牧師の殺害事件。捜査している国軍と警察による合同捜査チームは事件に関する証人の発見や証拠収集などを進めて犯人検挙を鋭意目指している。

しかし、予想以上の困難に直面して捜査が実質上行き詰まりをみせていることが地元メディアなどで明らかになった。

パプア地方(西パプア州、パプア州)の独立を求めて武装闘争を続ける独立派組織や支援者にとっては「独立記念日」にあたる12月1日を控えて現地では緊張が高まりつつあるといわれ、治安当局はさらなる独立運動の激化を警戒しながら、一方で牧師殺害事件の解決を迫られており、パプア州の特に山間部での治安悪化が現実の懸念として強まっている。

捜査状況を州警察本部長が会見で説明

パプア州のパウルス・ワタルパウ本部長は10月2日、「テンポ」などのインドネシアメディアに対して牧師殺害事件の捜査の進展状況に触れて「国軍と警察による合同捜査チームによる捜査を進めている」としながらも「事件が発生した地区が中央山間部でも特に遠隔地でありアクセスが非常に困難で限られること、目撃者の発見がほぼ不可能なことなどからなかなか進展がみられないのが現状」と捜査が難航している状況を明らかにした。

事件は9月19日にパプア州インタンジャヤ県山間部のビタディパ地区のプロテスタント教会に所属するエレミア・ザナンバニ牧師が正体不明の犯人から銃撃を受けて死亡したというものだ。

治安当局と教会組織などで見解対立

同州を管轄する陸軍や州警察は事件発生当初からエレミア牧師殺害は同地域で活動する独立武装組織「西パプア民族解放軍(TPNPB)」に所属するグループによる犯行と主張して、犯人逮捕と同グループ掃討作戦を実行している。

治安当局はパプアでの独立運動や独立運動組織の存在を公に認めることを避けており、今回のTPNPB関連グループによる犯行という見方もこれまで同様に「武装した犯罪組織による犯行」という表現を使っている。

これに対し、パプア地方及びインドネシア全体のプロテスタント教会組織などや地元パプアのマスコミ、人権団体などは事件現場からの情報を基に「現場近くで掃討作戦展開中の陸軍兵士により射殺された」と、治安部隊による殺害を主張し続けている。

これに対し陸軍などは「事件発生当時現場周辺に治安部隊は誰もいなかった」と否定する見解を示し、見解が対立している。

だが、犯行当時の状況が全く不明であることや、ジョコ・ウィドド大統領がパプア人の人権を重視していることを反映して、学識経験者や教会関係者、現地公的機関関係者などからなる「合同調査チーム」を政府主導で編成、真相究明にあたることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大

ビジネス

印財閥アダニ、資金調達に支障も 会長起訴で投資家の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中