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中南米でコロナ禍の貧困が拡大 破れる中産階級の夢

2020年10月13日(火)11時07分

新型コロナウイルスがチリに襲来したことで、47歳のベビーシッター、ロレナ・ロドリゲスさん(写真)は突然、仕事を失ってしまった。彼女は現金を確保するため、泣く泣く、何十年も大切にしてきた宝石類を質に入れることにした。写真はチリ・キルプエで8月撮影(2020年 ロイター/Rodrigo Garrido)

新型コロナウイルスがチリに襲来したことで、47歳のベビーシッター、ロレナ・ロドリゲスさんは突然、仕事を失ってしまった。彼女は現金を確保するため、泣く泣く、何十年も大切にしてきた宝石類を質に入れることにした。

ラテンアメリカ諸国の半数以上の住民と同じように、ロドリゲスさんも非公式(インフォーマル)労働者であり、沿岸部の都市バルパライソの富裕な地域で[顧客の]2人の子どもの世話をしていた。夫と合わせて家計所得は月70万ペソ(約9万5000円)で、さして不満のない生活を送っていた。

だが3月になると、ロドリゲスさんがバス通勤の際に感染するリスクを懸念して、勤務先の家庭が突然契約を解除してきた。

チリはラテンアメリカ地域でも最も豊かな国の1つだが、ロドリゲスさんは契約を失っても失業給付金や社会的支援を受けられなかった。政府からの緊急支援金10万ペソも長くはもたず、質屋に向かわざるを得なくなった。

ロドリゲスさんは「質屋が最後の頼みの綱だ」と言う。指輪、ブレスレットを担保に34万ペソを借り、陸軍を退役した夫との生活を支える。

「仕事は安定していたし、暮らし向きは悪くなかった。少なくとも、心配事がひどく多かったわけではない。今では、この先どうなるか見当もつかない」

ラテンアメリカ諸国には、同じように貧困への逆戻りを強いられる中産階級が何百万人もいる。COVID-19によって、社会福祉制度の脆弱さ、各国政府の財政余力の欠如が露呈した格好だ。ラテンアメリカ諸国の労働市場は、世界のどの地域よりも深刻な影響を被っている。

1980年代の経済停滞と危機を乗り越えたラテンアメリカ諸国では、コモディティ価格の好調が2000年代の成長を牽引し、6000万人もの人々が貧困から脱出するのを支えたおかげで、中産階級が成長した。

だが、6億5000万人が暮らすラテンアメリカ諸国は、国連の試算によれば今年はマイナス9%という開発途上地域のなかでも最悪の景気後退に直面しようとしている。

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