フィリピン、自爆テロ関与のアブ・サヤフ幹部ら殺害・逮捕 逃走メンバーが新たなテロの可能性も
別の幹部を逮捕、爆破装置など押収
また前日の27日には陸軍特殊部隊と警察諜報部隊の合同チームがサンボアンガ市レコド地区にある「アブ・サヤフ」のハシム・サリパダ(別名ハジリ・バナ)容疑者の潜伏先を急襲して同容疑者を逮捕することに成功した。
サリパダ容疑者はこれまでに2018年7月のバシラン島での自爆テロ事件(兵士11人死亡)や2019年1月のホロ市内キリスト教会自爆テロ事件(23人死亡)などへの関与が疑われている重要容疑者の1人だった。
逮捕したサリパダ容疑者の潜伏先からは爆弾テロに使用するために所持していたとみられる液体化学薬品、電線コード、起爆装置の部品、解体された手りゅう弾、バックパックなどが押収されたといい、新たな爆弾テロを計画中だったのは間違いないとしている。
2002年に「アブ・サヤフ」に参加したとされるサリパダ容疑者は、組織内でバシラン島、スールー諸島方面の組織の経理や人事を主に担当。海外から密航してくる外国人テロリストの担当もしていたとみられている。
治安当局関係者は「サリパダ容疑者の逮捕はアブ・サヤフの組織としての弱体化につながる大きな成果といえる」と掃討作戦が効果をあげつつあることを評価した。
自爆テロ実行候補者らがなお逃走中
8月24日のホロ市連続自爆テロで使用された爆弾製造に関わったとされるムンディ・サワジャン容疑者はインドネシア人爆弾専門家夫妻とともに逃走中とみられているが、これまでのところその消息に関る情報は得られていない。
逃走中のこのインドネシア人女性は2019年1月にホロ市内のキリスト教会で発生した自爆テロ実行犯であるインドネシア人夫妻の娘で、「親の復讐」と「イスラム聖戦敢行」のために自らも「自爆テロ実行」を志願しているとみられており、治安当局にとっては新たな自爆テロへの警戒と共にこの3人の逮捕を最優先に現在作戦を継続している。
ドゥテルテ大統領によるこうしたテロ組織「アブ・サヤフ」への厳しい対応と徹底した掃討・壊滅作戦実施は国民による高い支持率の一因ともなっており、看板政策である「麻薬関連犯罪への超法規的措置を含めた徹底した取り組み」と共に「強い指導者」としてのイメージをアピールすることに成功しているといえる。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など