最新記事

落語

「生きていること自体が噺家の仕事」──30年の落語家生活で柳家喬太郎が到達した円熟

2020年8月27日(木)15時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

『喬太郎のいる場所 柳家喬太郎写真集』100~101ページより(撮影・橘蓮二)

<人気落語家が語る、いまを生きる落語家が観客に伝えられる落語の神髄とは>

いま最もチケットが取れない人気落語家、柳家喬太郎――。落語家生活30周年を迎えてもなお演者として進化し続ける喬太郎の、多彩な表情を収録した写真集『喬太郎のいる場所 柳家喬太郎写真集』(橘蓮二著、CCCメディアハウス)が7月、発刊された。

著者の演芸写真家・橘蓮二による喬太郎へのインタビューの一部を今回、抜粋して掲載する。

◇ ◇ ◇


〝昭和40年代の風〞を吹かす!

蓮二 師匠は昭和38年生まれで、自分は36年生まれなんですよ。よくよく考えると、まだ戦争が終わって20年経っていないときに生まれているんですよね。

だから子どもの頃って、大金持ちの子も小屋みたいなところに住んでいる子も、ときには境遇の違いを感じることはあっても、一緒に遊んでいるときは関係なく混ざりあって生きていたんですよ。今はそういうことは見えづらいですけれど、実は裏では線引きされていたりして、かえって生きづらいですよね。

喬太郎 そこなんですよね。そもそも落語って、そういうもんだと思うんです。でもその分、ものすごく考えられないような残酷なことも描いているじゃないですか。逆に芸能としてどうだろうと思うから、今演じなくなっちゃった。落語事典なんか読むと、「こんなのがあったんだ」っていう噺があるわけですよね。内容は陰惨で、とてもできない。

蓮二 以前、喬太郎師匠が「ハッピーエンドは残酷」って言っていて、それはホントにその通りで、自分の中に残っているんですよ。

喬太郎 なんでそんなこと言ったんだろうと思いますけれど。

蓮二 中途半端というか一方的な「よかったよかった」で、今までの葛藤は何だったんだ、っていうのは、やはり残酷だと思いますよ。

喬太郎 おとぎ話だって、相当残酷だったりするじゃないですか。「かちかち山」だってあれ、婆さんを爺さんに食わしちゃうんですよ、狸汁に見せかけて。落語が好きになってそういうものに出会うと、「人間ってそういうことなんだな、ここまで残酷なこと考えるんだな」とも思うし。

でも、なんだろうな。蓮二さんがさっきおっしゃったような優しさとかそういったものも共存してあるわけだし、そういうものがごっちゃごちゃになって人間の体の中にあるんだと思うんですよね。落語で優しさを描くときに、ことさら以上に実は描いてない感じが落語のよさなんじゃねえかな、っていう気もしますよね。

<関連記事:六代目神田伯山が松之丞時代に語る 「二ツ目でメディアに出たのは意外と悪くなかった」
<関連記事:太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易摩擦の激化、世界インフレ見通しを複雑化させる=

ワールド

トランプ氏側近ウィットコフ特使がプーチン氏と会談、

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き 

ワールド

EXCLUSIVE-ウクライナ和平案、米と欧州に溝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中