香港の挽歌 もう誰も共産党を止められないのか
‘NOBODY CAN SAY NO TO BEIJING’
中国経済に占める香港の地位は、イギリスから返還された1997年当時に比べると、はるかに低くなっている。あの頃は香港経済が中国全体の18%を占めていたが、今は3%程度だ。規模の問題で言えば、仮に香港を失っても中国経済は揺るがない。
それでも、香港が世界有数の金融センターであるのは事実だ。英王立国際問題研究所の上級研究員で香港に駐在するティム・サマーズに言わせれば「香港は間違いなく中国にとって重要な場所」であり、「それは中国の指導部も承知している」。
各国の企業や投資家は今日まで、一国二制度の約束を信じればこそ香港に巨費を投じてきた。しかし本土並みの国家安全法が施行された今、その大前提が揺らいでいる。
ドイツ銀行のエコノミストでアジア太平洋地域を担当するマイケル・スペンサーによれば、今のところ各国企業に動揺は見られない。「政治状況の悪化が香港脱出を決断させる段階まで来たとは、まだ思っていないようだ」と、彼は言う。つまり、まだ差し迫った脅威は感じていない。しかし「企業活動や経済について自由に話せないことに気付いたら、投資家はどこか別の自由に話のできる場所に移っていく」だろう。
「国際金融センターとしての香港の将来に関わる問題の核心は、情報の自由な流れが妨げられていることに人々がどの段階で気付き、事業拠点を移し始めるかにある」と、スペンサーは言い切る。
外国の資本が逃げていけば香港経済は縮小し、そこに暮らす人々が豊かになれるチャンスは減る。そして国際的な商取引や国際社会における香港の重要性が低下すれば、諸外国が香港の自由と民主主義を応援し続ける動機も減る。
中国政府が望むのは、香港を政治的には中国共産党の指導下に置きつつ、経済的には今までどおりの繁栄を維持すること。今の状況を座視していれば、反体制派はますます増長するだろう。それに「新冷戦」下の米中関係においては、民主化運動の高まりはアメリカに新たな武器を与えることになりかねない。
一方でトランプは、もはや香港は中国と一体だと述べ、香港に認めてきた貿易上の優遇措置を停止する可能性もほのめかしている。ただし例によって具体的な点には言及せず、停止に至る行程表も示していない。言うまでもないが、アメリカも軽率には動けない。中国に経済的な打撃を与えたいが、香港住民の暮らしも守らねばならないからだ。
アメリカが香港に対する貿易上の優遇措置を取り消せば、香港はやむなく中国本土に接近し、中国への依存を深めるかもしれない。そうなればアメリカ企業も困る。米商工会議所の香港支部が先に実施した調査では、回答を寄せた米企業180社の8割以上が国家安全法を「非常に」または「ある程度」懸念していた。しかし、現時点で香港を出る計画はないとの回答も7割に達した。