最新記事

経済封鎖

新型コロナ、経済封鎖の影響で餓死する子どもが12万人以上増える、との試算

2020年7月29日(水)17時30分
松岡由希子

新型コロナ感染症そのものよりも...... Journalturk-iStock

<新型コロナウイルスの感染は、感染症そのものよりも、都市封鎖、貿易制限などの措置の影響が子どもたちを危機にさらしていることがわかってきた......>

国際連合児童基金(UNICEF・ユニセフ)は、2020年7月27日、「新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大により、消耗症(深刻な栄養状態の低下)になる5歳未満の子どもが年間670万人増え、世界全体で5400万人に達するおそれがある」と発表した。そのうち半数以上が南アジア地域で、サハラ以南のアフリカと合わせて約8割を占める。

「感染症そのものよりも、感染拡大の影響が、子どもを危機にさらしている」

新型コロナウイルスの感染拡大は、低中所得国(LMIC)の人々の食や栄養の摂取にも深刻な影響を及ぼしている。ソーシャルディスタンス(社会的距離)戦略や都市封鎖、貿易制限などの措置により食のサプライチェーンが寸断され、栄養のある新鮮な食材が手ごろな価格で消費者に幅広く届きづらい状況が続いている。また、入国制限や渡航制限により国際的な人道支援が中断し、現地の人々の健康維持に不可欠な栄養サービスが十分に提供できていない。

国際連合児童基金のヘンリエッタ・フォア事務局長は「新型コロナウイルス感染症が報告されて7ヶ月が経過し、感染症そのものよりも、その世界的な感染拡大の影響が、子どもたちを危機にさらしていることがわかってきた」とし、「世帯の貧困率や食料不安率は上昇している。栄養サービスやサプライチェーンが混乱し、食料の価格が高騰した結果、子どもの食事の質が低下し、栄養不良率が高まっている」と警鐘を鳴らす

また、世界保健機関(WHO)の保健・栄養学担当部長フランチェスコ・ブランカ博士は、AP通信の取材で「新型コロナウイルスによる食料安全保障の影響は今後、何年にもわたって続くだろう」との見通しを示している。

消耗症の子どもは感染症による死亡リスクが高く、5歳未満で死亡した低中所得国の子どものうち1割が、重度の消耗症によって命を落としている。新型コロナウイルス感染拡大前では、中度または重度の消耗症の5歳未満の子どもは4700万人と推計されていた。

5歳未満で死亡する子どもの数が1ヶ月あたり1万人以上増える......

7月27日に医学雑誌「ランセット」で公開された国際食糧政策研究所(IFPRI)の分析結果では、新型コロナウイルスの感染拡大により、中度または重度の消耗症の5歳未満の子どもが14.3%増加し、2020年の1年間で、5歳未満で死亡する子どもの数が12万8605人増えることが示されている。これによれば、5歳未満の子どもの死亡者数が1ヶ月あたり1万人以上増えることになる。

国際連合児童基金、世界保健機関、国際連合食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)の事務局長が7月27日に「ランセット」で共同発表した論文では、子どもの栄養への権利を保護する対策として、「栄養があり安全な食を手ごろな価格で入手できるようにすること」、「妊婦や乳児、子どもの栄養改善に投資すること」、「子どもの消耗症の早期発見と治療への取り組みを再開し、拡大させること」、「栄養があり安全な学校給食を維持すること」、「栄養がある食事と不可欠なサービスへのアクセスを確保すること」を各国政府や民間企業らに広く求め、一連の対策に充てる緊急資金として24億ドル(約2522億円)が必要だと訴えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中