最新記事

朝鮮半島

ビラ散布で北朝鮮に命を狙われる脱北者・朴相学が語る

He Sends Up Balloons, and North Korea Wants Him Dead

2020年6月30日(火)15時20分
モーテン・ソエンダーガード・ラーセン

2019年2月、ソウルのアメリカ大使館前で米朝会談開催に抗議する朴相学 Kim Hong-Ji-REUTERS

<北朝鮮が南北連絡事務所を爆破する口実を作り、それでも反北朝鮮のビラ散布をやめないと言う脱北者団体代表は、北朝鮮スパイに2度、殺されかけた>

韓国・ソウル南部の駐車場に滑り込んできた黒い車から、3人の男が降りてきた。このうち2人は(外見からは分からないが)警察官で、もう1人が彼らの警護対象である朴相学(パク・サンハク)だ。脱北して現在は韓国で暮らす朴は、北朝鮮から「エネミー・ゼロ(敵0号)」などと呼ばれ敵視されている。

朴は6月中旬、とある公園でフォーリン・ポリシー誌をはじめとする海外のジャーナリストの取材に応じ、「もう2回、危うく死にかけている」と語った。1回目は2011年。ある脱北者と会おうとしたが、韓国の諜報機関から警告を受けたという。同機関がこの人物の身柄を拘束したところ、毒が仕込まれた2本のペン(1本は毒針が仕込まれており、もう1本は毒が塗られた飛翔体を発射できる仕組みになっていた)や、実弾3発を発射できる懐中電灯を隠し持っていたことが分かった。

2回目はその翌年。朴の暗殺を企てたとして、北朝鮮のスパイが逮捕された。これ以外にも、自分が狙われていると思い知らされることはあったと彼は言う。

「北朝鮮側は韓国国内にいるスパイを通じて、私のオフィスに鳩の頭やネズミを送ってくる」と彼は語った。朴が話している間、2人の警察官は、彼が座っているベンチにつながる道をふさぐように立ちはだかり、そのため日課の散歩をしていた高齢者たちは、植え込みの中を歩かなければならなかった。

米ドルを入れるポケットも

朴が北朝鮮に命を狙われるのには、理由がある。朴が率いる脱北者を中心とした活動団体「自由北韓運動連合」は、北朝鮮の体制を批判するビラを吊るしたバルーンを、北朝鮮に向けて飛ばし続けている(朴はこのバルーンを公園にも持ってきていた)。米ドル札を入れるポケットもついている軽くて透明なこれらのバルーンこそ、このところの南北間の対立の原因だ。問題は、ビラに書かれている内容にある。

「ビラには、金一族に関する真実が書かれている。そして金正恩は真実をとても恐れている。北朝鮮の人々は金正恩を神様だと思ってあがめているが、もし彼らが金についての真実を知ったら、もう金のことを神様だとは思わなくなるだろう。金が最も恐れているのはそこだ」と朴は言い、さらにこう続けた。「金一族がどれだけ止めようとしても、私はこれからも北朝鮮の人々に向けて、真実を書いた手紙を送り続ける」

朴が脱北したのは1999年だ。90年代に北朝鮮を襲った深刻な飢饉の規模について、父親がその真実を知ったことが理由だった。当局による粛清を恐れた朴は親きょうだいと共に中国に逃れ、その後、韓国に渡った。2003年には、北朝鮮に残してきた婚約者が、当局の人間によってかつての面影がなくなるほど殴られ、2人の叔父が拷問にかけられて命を落としたことを知らされた。彼は自由北韓運動連合を立ち上げ、北朝鮮の体制を批判する活動を始めた。

<参考記事>韓国の弱腰対応が北朝鮮をつけ上がらせている
<参考記事>アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠写真

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中