ビラ散布で北朝鮮に命を狙われる脱北者・朴相学が語る
He Sends Up Balloons, and North Korea Wants Him Dead
問題のビラは金正恩のことを、ヨーロッパで教育を受けた「偽善者」で、国民が懸命に働いた成果を盗む「泥棒」だと称し、金が未成年者に性的暴行を加えたとまで非難している。
だから6月に入って金正恩の妹である金与正が、韓国で暮らす脱北者たちを「人間のクズ」と痛烈に非難し、彼らを罰するべきだと主張したのも、驚きではなかった。だがこれは朴にとって、静かなる勝利だった。「北朝鮮が初めて『脱北者』という言葉を使った。ビラには脱北者という言葉が書かれているから、彼らももう脱北者の存在を隠すことができないと分かったのだろう。この反応からも、彼らがいかに真実を恐れているかが分かる」と彼は語った。
北朝鮮メディアは、北朝鮮の人々が韓国にいる脱北者を罵り、彼らに罰を与えるよう要求する大規模デモを行っている写真を報じている。一時期は、軍事的な報復さえ検討されていたようだった。
韓国政府は事態の悪化を防ぐために、北朝鮮に向けたビラ散布を禁止する措置を取った。
「平和と自由はただでは手に入らない。誰かが犠牲を払わなければならない。だからもし自分が金正恩に殺されるなら、名誉なことだと思う」と朴は語った。
ビラ散布は「口実にすぎなかった」
北朝鮮が南北連絡事務所を爆破して以降、南北間の緊張は高まっている。北朝鮮側は韓国に対する軍事行動も辞さないとし、実際に南北の軍事境界線を挟む非武装地帯で、北朝鮮軍の兵士たちが動き回る様子も確認された(その後この「軍事行動計画」は保留されている)。
だが複数の専門家は、問題はそんなに単純なものではないと指摘。北朝鮮はビラ散布を口実に緊張を激化させ、目的を果たそうとしているのだとみている。「ビラ散布は、連絡事務所を爆破するのに十分な理由ではない。確かに北朝鮮側としては気に入らないだろうが、朴は2年前からビラ散布を行っているのに、北朝鮮はそれに反応してこなかった。なぜ今になって反応したのか」と、アサン政策研究院(ソウル)の研究員である高明铉は語る。
朴と彼が率いる自由北韓運動連合は、2019年に11回のビラ散布を行い、2020年に入ってからは5回の散布を行っている。北朝鮮は、ビラ散布を「韓国に対する脅しを激化させる口実」に使ったにすぎないと高は指摘する。いったん激化させた緊張を抑制することで、北朝鮮経済に大きな打撃をもたらしている制裁を一部解除させるという最終目的を果たすのが狙いだと。
「2017年にも、まったく同じことが起こった。北朝鮮とアメリカの間の緊張が激化して、これがドナルド・トランプ米大統領による『炎と怒り』発言や、どちらの核ボタンが大きいかという発言にまで発展した。その翌年、金正恩は、韓国との話し合いに応じ、アメリカにも働きかけを行うつもりだと発言した」と高は言う。
彼はさらに続けた。「それが北朝鮮にとって素晴らしい成果をもたらした。彼らはアメリカと対話を始め、史上初の米朝首脳会談が実現した。北朝鮮からすれば、信じられないほどの成功だ」
(翻訳:森美歩)
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