最新記事

新型コロナウイルス

批判覚悟で中国を称賛 WHO事務局長テドロス・アダノムの苦悩と思惑

2020年5月20日(水)12時27分

中国称賛への「歯ぎしり」

大きな疾病が発生すると、テドロス事務局長はすぐその中心地に自ら足を運ぶことが多い。2018年8月に発生したエボラ出血熱。テドロス氏は2年間で少なくとも10回、コンゴ民主共和国を訪れた。ほぼ終息に近づいていたエボラの流行は、今年4月に再燃している。

2019年4月、コンゴのエボラ専門病院でWHOのために働いていたカメルーン人医師が銃撃で死亡したことがあった。ある西側外交官はこのとき、テドロス氏が声を出して泣いているのを目撃した。「それくらい、彼の仕事のスタイルは情熱的だ。我がこととして取り組んでいる」と、この外交官は話す。

中国は肺炎が集団発生したことを、2019年12月31日にWHOに報告している。WHOは年明け1月14日、中国当局による予備調査では「人から人に感染するという明白な証拠は見つかっていない」とツイッターに投稿した。後日、WHOが中国に対して十分に懐疑的でなかった事例としてトランプ大統領から指摘されることになる。

もっとも、WHOの専門家は同日、(人から人への)限定的な感染が起きている可能性があると述べている。1月22日、訪中したWHO調査団は、武漢において人から人に感染したという証拠はあるが、完全に解明するにはさらなる調査が必要との見解を示した。

1月末、テドロス事務局長と幹部3人が北京に飛んだ。ライアン氏によれば、「公式の招待を受けたのは午前7時半。その日の午後8時には飛行機に乗っていた」という。

テドロス氏は1月28日に習国家主席と会談。データと生物学的資料を共有することを特に協議したという。テドロス氏は習氏と握手する写真をツイッターに投稿し、「率直に協議した」「(習氏は)歴史に残る国家的対応を担った」と書き込んだ。

翌日にジュネーブで行われた記者会見で、テドロス氏は習氏のリーダーシップを称賛し、「習主席が感染拡大を詳細に把握していることに非常に勇気づけられ、感銘を受けた」と述べた。さらに、中国は「国内的にも対外的にも、透明性の確保に完全にコミットしている」と語った。

感染症が発生した当事国の政府を公然と批判すると、情報共有をはじめ協力に消極的になる恐れがある、とベテランのWHO職員は言う。WHOでアフリカ地域の緊急事態対応を統括するマイケル・ヤオ氏は、プレッシャーを感じてWHOとの連絡を絶ってしまう国をいくつか見てきたと話す。アフリカでコレラが発生したことを公表した際、そうしたことが何度か起きたという。

「データにアクセスできなくなり、最低でも特定の疾病のリスクを評価するだけの能力さえ利用できなくなってしまう」と、ヤオ氏は言う。

一方で、テドロス氏が中国政府の対応を高く評価することを、快く思わない向きもある。テドロス氏は毎週、WHO加盟国の外交官向けにブリーフィングを行っている。欧州から参加している特使の1人は、「テドロス氏が中国を称賛すると、歯ぎしりして悔しがる者が必ずいる」とロイターに語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアはエネ施設停戦に違反、米国務長官にウクライナ

ビジネス

米GM、インディアナ州工場で生産拡大 トランプ大統

ビジネス

アングル:日本の不動産は「まだ安い」、脱ゼロインフ

ビジネス

米モルガンSが日本特化型不動産ファンド、1000億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 3
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中