最新記事

新型コロナウイルス

批判覚悟で中国を称賛 WHO事務局長テドロス・アダノムの苦悩と思惑

2020年5月20日(水)12時27分

中国の対応を支持した理由

WHO内部の議論に詳しい関係者はテドロス事務局長について、トランプ氏の動きに「明らかに苛立っている」と打ち明ける。テドロス氏は、WHOが「政治的なサッカーボール」として利用されていると感じているという。

テドロス事務局長はこれまで、中国政府を称賛したのは軽率だったとする批判に強く反論してきた。中国の思い切った措置がウイルスの拡散を減速させ、他国は検査キットや緊急医療体制の準備を進める余裕ができた、というのがその理由だ。また、トランプ政権が資金拠出凍結を考え直すことを望む一方、主要な関心はパンデミックから命を救うことだと表明してきた。

関係者によれば、テドロス氏は訪中して習指導部への支持を公然と表明すれば、中国をライバル視する国を怒らせるリスクがあることを承知していた。と同時に、新型コロナウイルスが世界に広がっていく中で、中国政府の協力を失うリスクの方が大きいと考えていたという。

北京に2日間滞在したテドロス氏は、感染源の調査、ウイルスとそれを原因とする感染症のさらなる解明に向け、WHOの専門家と各国の科学者から成るチームが訪中する合意を中国指導部から取り付けた。この調査団には2人の米国人も含まれていた。

アイルランド出身の疫学者で、WHOで緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン氏は、テドロス事務局長の訪中に同行した。ライアン氏もテドロス氏も、中国の新型コロナ封じ込め計画を確認し、それがしっかりしたものであることが分かった以上、中国を支持することが重要であると考えたという。

WHOが目指していたのは、「できるだけ積極的かつ迅速な対応が行われ、成果を収める」ようにすることだったと、ライアン氏は言う。「そうした対応を行うというコミットメントを揺るぎないものにしておくこと、対応の実施に問題が生じた場合にコミュニケーション経路をオープンにしておくことを求めていた。

新型コロナウイスへの対応を巡る不手際を批判されているのは、トランプ政権も同じだ。そのトランプ大統領は、WHOと中国への攻撃を緩めようとしない。

米国政府のある高官はロイターに対し、WHOは「新型コロナウイルスの脅威を高め、ウイルス拡散につながった中国の責任を何度も見逃してきた」と説明する。この高官は、WHOへの拠出金は中国より米国のほうが多いと指摘、WHOの行動は「危険かつ無責任」であり、公衆衛生上の危機に「積極的に取り組むというよりも」むしろ深刻化させていると語った。

さらに「調整の拙劣さ、透明性の欠如、リーダーシップの機能不全」が新型コロナウイルスへの対応を損なっていると主張。「世界の公衆衛生を良くするのではなく、阻害するような機関に何百万ドルも供与するのは止めるべきときだ」と述べた。

ロイターはWHOに対する認識を中国外務省に問い合わせたところ、「新型コロナウイルスの感染拡大以来、WHOはテドロス事務局長のリーダーシップのもと、積極的にその責任を果たし、客観的・科学的で公正な立場を維持してきた」との回答を得た。「私たちはWHOのプロフェッショナリズムと精神に敬意を表し、パンデミックに対するグローバルな協力におけるWHOの中心的役割をしっかりと支持し続ける」とした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月改定景気動向指数、一致指数は前月比+1.3ポイ

ビジネス

村田製が新中計、27年度売上収益2兆円 AI拡大で

ビジネス

印財閥アダニ、米起訴受け銀行や当局が投融資調査 資

ビジネス

伊銀行2位ウニクレディト、3位BPMに買収提案 約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中