大手民放が放送停止、ラジオ局キャスター射殺 報道の危機強まるフィリピン
放送停止命令を受けた民放ABS-CBN本社前にはロウソクで支持をアピールする人びとが集まった。ABC News (Australia)/ YouTube
<政治家たちが意に反するジャーナリストを抹殺しようとしている>
フィリピンの報道の自由が危機的状況を迎えている。大手の民間放送局が国家放送委員会(NTC)からの命令で放送中止に追い込まれたのに続き、FMラジオ局のキャスターが正体不明の男たちに射殺される事件も起きた。
2016年6月のドゥテルテ大統領就任以来殺害された記者は今回の事件を含めて16人に上るなど、フィリピンはジャーナリストが活動する最も危険な国の一つになっている。
マルコス独裁政権をピープルズパワーで打倒したいわゆる「エドサ革命」。それによって実現したフィリピンの「言論・報道の自由」は今再び危機に瀕している。事実、2020年度の世界180カ国の「報道の自由度」では昨年より2ランク下げて136位となった。
最大手の民放ABS-CBNが免許失効で放送中止
1946年に創業された最大手の民放テレビ局ABS-CBNは5月5日の放送を最後に停波、つまり放送中止に追い込まれた。これは4日に25年間の放送免許が失効したことを受けてNTCが命じたもので、ABS-CBNとその系列テレビ、ラジオ局など全42局が放送中止となった。
現在はYouTubeとFacebookなどのネット上でニュースを伝えるだけになっているが、ABS-CBNはNTCの放送中止命令に対して最高裁に不服を申し立てる方針だ。
NTCによるABS-CBNの放送中止命令は放送免許の更新期限が切れたことが表向きの理由とされているが、議会での更新審議が続いている間は放送継続可能とされていた。
しかしコロナウイルス対策が審議優先とされ、その後議会そのものが中断する事態となり、更新期限を迎えたことからNTCが4日に突然放送中止命令を出す事態になった。
大統領府は「法律に従った決定でNTCの判断である」とするだけだが、ABS-CBNがドゥテルテ大統領の強硬な麻薬犯罪捜査の手法に反対したり、各種政策に批判的な立場の報道を繰り返するなど、政権側にとっては「目障りな放送局」だったことが、今回の放送中止命令の背景にあるとの見方が有力視されている。
レニー・ロブレド副大統領は「コロナ対策で手一杯で、政府がABS-CBN問題に介入する余力はない」として政治的な背景があるとの見方を否定している。