新型コロナウイルスが変える都市の未来 食糧安保や監視強化も
都市が繁栄していくためには
前出のマシューズ氏は、新型コロナウィルスにより旅行・観光産業が大きな痛手を被るなかで、観光収入に依存していた都市は経済モデルの全面的な見直しを迫られている、と語る。
欧州最大の観光地の1つであるアムステルダムでは、市当局が今月初め、いわゆる「ドーナツ」モデルを基準に公共政策を決定していくことを目指すことになろう、と述べた。社会システムの構造を「ドーナツ」に見立ててたこのモデルは、より良い生活のために社会的・エコロジー的な目標を重視する考え方だ。
英国のエコノミスト、ケイト・ラワース氏がまとめた概念図によれば、ドーナツの穴にあたる内側の輪が囲む中心部分は、誰もが生存のために欠かせない必要最小限の要素、つまり食糧や水、適切な住居、公衆衛生、教育、医療を表している。一方、ドーナツの外縁の輪が象徴するのは気候変動対策や海洋の健全性、生物多様性といったエコロジー的な目標だ。
この2つの輪の間にあるドーナツの本体部分に、人間のニーズと地球のニーズの双方を満たしつつ、都市が繁栄できる空間があるとラワース氏は言う。
視線を転じれば、人々が職を失いつつあるなかで、普遍的なベーシックインカム(最低限所得保障)を導入しつつある政府がある。
スペイン当局は、市民に毎月現金支給を行う制度を導入する計画を進めていると述べており、ブラジルでは貧困層を対象とした緊急ベーシックインカム制度が可決された。
「ベーシックインカム・アース・ネットワーク」の啓発担当者ルイーズ・ハーグ氏によれば、2007─08年のグローバルな金融危機に際して各国が講じた財政緊縮措置により、社会のセーフティネットが失われるとともに雇用が不安定化した。その結果、ベーシックインカムへの関心が高まっているという。
「危機はあらゆる秩序をひっくり返した」
ハーグ氏は、「今回の危機から学ぶべき最も重要な教訓は、恐らく、医療システムがいかにして私たちの社会や経済を持続させているか、という点だろう。経済の安定はこうした大きな社会の構図の一部分であり、ベーシックインカムは社会を維持するための1つの方策だ」と語る。
「危機が去った後、たとえ大きな政策変更が見られないとしても、現在のシステムが何らかの形で再考されるという希望はある」と彼女は言う。
マシューズ氏は、少なくとも経済という点において、多くの都市はかつてのような形には戻れないだろう、と言う。
「今回の危機は、私たちのシステムの根本的な弱さを完全に暴露し、あらゆる種類の秩序をひっくり返した」と同氏は言う。
「徹底的な再調整が行われることになるだろう」
(翻訳:エァクレーレン)
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