アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で診断数増加
12月16日、「GLP─1受容体作動薬」と呼ばれる効果の高い肥満症治療薬が米国の医療現場で果たす役割が広がりつつあることが、医療データや医師への取材で分かってきた。写真はオゼンピックで原料後に両肺移植手術を受けたベンサビオ・ガジャルドさん。インディアナ州トレイルクリークで10月撮影。シカゴ大学医学部提供(202年 ロイター)
Deena Beasley
[16日 ロイター] - 「GLP─1受容体作動薬」と呼ばれる効果の高い肥満症治療薬が米国の医療現場で果たす役割が広がりつつあることが、医療データや医師への取材で分かってきた。
これらの薬は、処方された患者が長らく敬遠していた病院に足を運び、肥満にかかわる疾患の適切な診断を受けたり、手術など他の医療措置を可能にするために必要な体重管理を手助けしたりしているからだ。
医療データ会社トゥルーベータ(Truveta)が数十万人分の医療記録を分析したところ、2020年から24年まで、GLP─1受容体作動薬を最初に処方されてから15日以内に初診で睡眠時無呼吸症候群や心疾患、2型糖尿病との診断を受けた患者の数はわずかだが着実に増加している。
内分泌学と肥満症治療薬の研究を専門とするレクハ・クマール医師は「これは以前に医療従事者からダメ出しをされたと感じて病院に行かなくなった人々だ。だが今彼らは、(肥満症治療薬を服用した結果)自分自身が健康になっていくの感じて、医師にもっと質問したり相談したりするようになっている。新しい患者が増えているのを感じる」と述べた。
GLP─1受容体作動薬に属するのはノボノルディスクの肥満症治療薬「ウゴービ」、糖尿病治療薬「オゼンピック」や、イーライリリーの肥満症治療薬「ゼップバウンド」「マンジャロ」などで、平均で体重を少なくとも15%減らす効果がある。
肥満症治療薬専門家でカンザス州のハートランド減量クリニックを創業したコートニー・ヤングラブ医師は、子宮頸がん検査や大腸内視鏡検査などの定期検診を何年も先延ばしにしてきた肥満患者の存在に言及。多くの肥満患者は、悪評や偏見を嫌って医師との接触や定期検診を避けてきたと述べ、健康維持のための予防医療を受けていない肥満患者は多いと付け加えた。
<勇気をもらう>
シカゴの技術系企業で重役を務めるフィルさん(43)も、昨年初めに遠隔診療を通じてGLP─1受容体作動薬を受け取るまで、病院の受診を敬遠してきた1人だ。
その数カ月後で14キロ弱やせたフィルさんは、恐る恐るかかりつけだった内科医に同薬を使っていることを伝え、思いがけず好意的な反応をもらったので、自らもっと積極的に依存症やメンタルヘルスなど他の問題でも助言をもらうことを決めた。
「この薬は私に質問する勇気をくれた」と語る。
トゥルーベータの分析によると、GLP─1受容体作動薬を今年初めて処方された患者のうち15日以内に2型糖尿病と診断されたのは1000人中42人と、2020年の32人から増加。同じ期間に睡眠時無呼吸症候群の診断を受けた患者は1000人中8人から11人に、心疾患の診断患者は同13人から15人にそれぞれ増えた。
同社のデータに基づくと、肥満患者はそうでない人に比べて2型糖尿病と診断される件数は2倍、睡眠時無呼吸症候群の診断件数は3倍に高まる。
<手術も可能に>
睡眠時無呼吸症候群の治療機器を販売するレスメッドは、6月までの年度に売上高が11%増加し、その一因としてGLP─1受容体作動薬の影響を挙げた。
マイケル・ファレル最高経営責任者(CEO)は、同薬が以前なら決して来訪しないような人々をプライマリーケア(最初に相談窓口となる医療機関)に呼び込んでいると説明した。
市場分析会社アルファセンスのヘルスケア調査ディレクター、サラ・マラット氏は、GLP─1受容体作動薬は睡眠時無呼吸症候群に加えて、人工関節施術の増加をもたらしていると指摘。「体格指数(BMI)が低下すると、そうでないと受けられない手術が可能になる。今のところだれも、この現象が有意な形で起きていると口にしないが、私はそうなっていくと思う」と述べた。
シカゴ大学医学部は昨年、臓器移植を希望する患者の体重減少を促す専門施設を開設し、ここでGLP─1受容体作動薬が重要な役割を担っている。
この施設の薬剤師、アネシア・レティカー氏は、これまでそうした患者を送り込む場所がなく、移植手術の日程管理者は「あなたのBMIはいくつか」と聞くだけで、基準を満たさなければ独力で減量してきなさいと伝えるだけだったと話す。
鉄鋼の仕事を引退したベンサビオ・ガジャルドさん(68)は昨年、この施設でオゼンピックを処方された時点では、肺線維症による呼吸困難に見舞われていて今後も生き延びるには2つの肺の移植が必要だったが、手術するには太り過ぎと見なされていた。
ガジャルドさんは「オゼンピックが多大な力になった」と語り、40キロ余り減量していったん服用を停止した後、今年5月に無事手術が成功した。医師からは、高血糖値を抑制するため服用再開を指示されている。
レティカー氏によると、施設では減量プログラムについて過去1年でシカゴ地域の各臓器移植センターから約100件の減量プログラムの照会を受けたという。
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