イスラム教の断食明け休暇帰省を全面禁止へ インドネシア、新型コロナウイルス感染拡大ストップへ
コロナ失業による強盗・窃盗など治安悪化への対策急務に
主要メディアの「テンポ」電子版は21日、ジャカルタ南郊のボゴールで30歳の男性が起こした窃盗事件を報じた。男性は新型コロナウイルスの対策で操業短縮に追い込まれた靴下工場を最近解雇され、生活に行き詰った結果近所の店からガスボンベを盗もうとして店員や客から暴行を受け、逮捕されたという。
警察の取り調べにこの男性は「食べるものがなく、2日間何も食べていない。子供に食べるものをとつい盗みをしてしまった」と供述していると伝えている。
ジャカルタでは西部の貴金属店に拳銃を持った強盗が押し入るなどの事件が相次いでいる。さらに刑務所での新型コロナウイルス蔓延を回避するために法務人権省が4月2日に服役囚3万8822人の早期釈放に踏み切った。釈放されたのは軽犯罪や経済犯などが中心で凶悪犯、テロ犯、麻薬犯、汚職犯などは含まれていない。
しかし「ただでさえ新型コロナウイルスの影響で失業者が増えている社会情勢で、釈放された人達が簡単に仕事を見つけられるとも思えない」(国家警察幹部)ことから釈放者による再犯、再逮捕の事案も増え、これまでに10人以上が刑務所に戻され、射殺された容疑者もでている。
こうした事態に国家警察は各州警察に釈放された服役囚の再犯にも目を光らせるように指示。刑務所側から釈放された服役囚の居住地、出身地などに関する情報提供を受けて、該当地域の町内会や地方自治体と連絡を取りながら監視体制を強めているという。
さらに犯罪増加の懸念が高まっているジャカルタでは首都圏警察が特別チームを編成して街頭パトロールの強化を始めている。
イスラム教徒団体の指導者などはこれまでも帰省の自粛を呼びかけてきたが、PSBBの影響で失業したり、通勤が不要になったりした労働者が早めの帰省をするためにジャカルタの主要バスターミナルや長距離列車のターミナル駅では混雑が続いている。
こうした混雑は感染拡大の危険を大きくはらんでいるものの、今後政府による帰省全面禁止が正式に効力を持つ前に駆け込み帰省をしようとする人々によるさらなる混雑が予想されている。
このためジョコ・ウィドド大統領が決断した「新型コロナウイルス感染の地方への拡大阻止」がどこまで実効性を伴うことになるのかはなかなか見通せない状況となりそうだ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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