夜更けの街で酔っ払いを乗せて──ライドシェア運転手の告白
The Drunk Men I Drive Around Every Night
深酒はドメスティックバイオレンス(DV)や病気など、さまざまな問題と関係がある。酔っぱらいを毎晩のように乗せていると、彼らを助けるつもりでやっていることが、逆効果になっている気がしてならない。
私は決して、「深夜のヒーロー」などではない。
数カ月前、リフトは安全意識を啓蒙する動画を運転手に視聴させた。大半は運転手を不快にさせる発言をしたり、運転手の体に触れてきたりする乗客への対応についてだった。私は経験がなかったが、男性運転手のほうがその手の被害に遭いにくいのだろう。
動画を見たすぐ後に、ゲーリーを乗せた。何日も飲み続けているような臭いを放っていた。小さなスーツケースが1つ。ネバダ州に引っ越すから駅に行くと言った。
女性運転手は寄越すなと、リフトに「便箋5枚」の手紙を書いたんだ――彼はとりとめもなく話し始めた。
「彼女は、目的地に着く前に降りろと言った。俺が触ったから、だとよ。本当に道端に置き去りにされた。辺りは真っ暗だ。俺は絶対に触ってない。だから、もう女の運転手は嫌だと言ってやった」
「触ったかもしれないな。覚えていない。酔っぱらっていたからな。彼女は『ファザコン』だったんだよ」
そして、自分は「こんなふうに」触っただけだと言いながら、私の肩に手を伸ばそうとした。それを見て、私は言った。「私に触ったら降りてもらいます。今、ここで」
真っ暗な道端に彼を置き去りにしたら、どんなにせいせいしただろう。
私はユニオン駅でゲーリーを降ろした。その夜はもう少し車を走らせた。
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<本誌2020年3月31日号掲載>
2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。