最新記事

アメリカ社会

夜更けの街で酔っ払いを乗せて──ライドシェア運転手の告白

The Drunk Men I Drive Around Every Night

2020年4月4日(土)15時30分
ピーター・ジャクボウィッツ(リフト運転手、ライター)

つまり、ライドシェアで飲酒運転が減っても、飲酒自体は増加し、飲酒以外の公衆衛生上のリスクも増大する恐れがあるわけだ。「今回の結果からは、ライドシェアが最終的に社会に及ぼす影響が、既存の文献や政策議論以上に複雑である可能性がうかがえる」と、研究チームは結論付けている。

私が乗せる客のほとんどは中年男性。午前2時半前頃にオレゴン州ポートランド市内や周辺で、まともに話せないほど酔っている。

ジェームズの前の晩は同じパブでアダムを乗せた。アダムのような客は多く、50代が中心でインテルなど近くのIT大手で大儲けした連中じゃないかと思うが、確信はない。

アダムにはバーテンダーが付き添っていた。酔った客に代わって、彼らが客のスマホで車を呼ぶことも多い。ウーバーやリフトの運転手として、自分が酔わせた客を家まで送るつわものまでいる。

赤い顔の怒れるアダムたちを乗せて走るうちに、小遣い稼ぎで運転手をすることへの罪悪感が芽生えた。車を降りた後、彼らはどうなるのか。彼らの多くは助手席に座り、話したくてたまらないようだが、名詞一つ出てこない。

一方、ここならバレないだろうと女性蔑視発言をする連中も多い。私は口出ししない主義だが、ひど過ぎる場合は話題を変えるように言う。それでも駄目なら降りてもらう。

大学フットボールの全米ナンバーワンを決めるローズボウルでオレゴン大学がライバル校を下した夜、ビーバートンの民家で中年男性2人組を乗せた。オレゴン大学を応援しているのは一目瞭然で、目的地に着くなり、駐車場でライバル校のTシャツを着た女性を見つけ、わいせつなジョークを言って笑った。黙っている私に、1人が言った。「どうした? 笑ってないな」

昼間にリフトやウーバーの運転手を乗せることもある。彼らがバーの閉店時間に遭遇した客のことを聞くと、笑いながらお決まりのフレーズが返ってくる。「道路に寝っ転がるよりは、後部座席のほうがましさ」

飲み過ぎを助長することに、良心の呵責を感じないかと尋ねると、彼らは肩をすくめて言う。「俺たちの稼ぎどころじゃないか」

driver200404-02.jpg

夜の繁華街はライドシェアの稼ぎどころだが、飲酒運転は減っても飲酒が増えるというジレンマも PAUL MCKINNON/ISTOCKPHOTO

酔っぱらいの奇妙な論理

バーの店員の助けを借りずに私の車に乗ることができて、まだ話ができる客の中には、「おかげで1万ドルの節約になった」と言う人も多い。

確かに、私のおかげで飲酒運転の罰金を節約できたわけだし、路上より後部座席のほうがはるかにましだ。でも、酒が健康に及ぼす影響や彼らの家族の苦労を考えると複雑な思いが募る。

私が乗せる酔っぱらいたちは、自分がどれだけ飲んだのか気にしていないようだ。自分で運転しなくて済んだ、飲酒運転で捕まらなくてよかった、飲みに行けてよかった。それしか考えていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

メタ、反トラスト法訴訟の和解持ち込みへトランプ氏に

ビジネス

カナダ首相、米関税に対抗措置講じると表明 3日にも

ビジネス

米、中国からの小包関税免除廃止 トランプ氏が大統領

ワールド

トランプ氏支持率2期目で最低の43%、関税や情報管
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中