【解説】マレーシアの複雑過ぎる政治劇、またも見送られたアンワルの首相昇格
アンワル(左)がマハティール(右)の後継者と目されていたが…… AP/AFLO
<90年代にマハティール政権で副首相を務めた後、10年間の刑務所生活。2018年に政界復帰したアンワルの次期首相は既定路線とされていたが、政界の混乱が今度も首相昇格を阻んだ>
マレーシアの政界で、アンワル・イブラヒムほど苦難と忍耐を強いられてきた政治家はいないかもしれない。
1990年代には当時のマハティール政権で副首相を務め、次期首相候補と見なされていた。ところが、1998年に副首相の職を解かれて失脚。さらには、権力乱用や同性愛行為(マレーシアでは違法)の罪で2度にわたり合計で10年近くの刑務所生活も経験した。
それでも2018年には、長年の忍耐がようやく報われたかに見えたときがあった。アンワルは、このとき既に一線を退いていたマハティールと再び手を組んで政党連合「希望連盟」を結成。5月の総選挙で当時のナジブ政権に挑んだ。この選挙では、大方の予想を覆して希望連盟が地滑り的勝利を収めた。
こうして、汚職疑惑が持ち上がっていたナジブに代わり、マハティールが首相に復帰した。このときは、2年後にはアンワルが首相に昇格するのが既定路線と思われていた。しかし、マレーシアの政治は大混乱に陥り、アンワルはまたしても首相の座を逃しそうだ。2月24日、希望連盟内部の足並みの乱れを理由に、マハティールが首相辞任を表明した。後継首相選びは混沌とし、誰が首相になるかは、複雑な多数派工作の行方に左右された。希望連盟は当初、アンワルを次期首相候補に推していたが、29日になってマハティールの首相再就任を目指す方針に転換した。
野党連合は希望連盟から離脱したグループと連携する動きを見せた。野党連合の核を成すのは、マレー人の全国組織である「統一マレー国民組織(UMNO)」とイスラム主義政党の「全マレーシア・イスラム党(PAS)」だ。
マレーシア政治に詳しいタスマニア大学のジェームズ・チン教授によれば、国の人口の約半分を占めるマレー人イスラム教徒の間には、現状への不満がくすぶっている。「これらの政党は、少数民族の力が強過ぎると主張。現政権はイスラム教徒を守らないと訴えて、有権者の恐怖心をあおっている」と、チンは言う。
マハティールは、政界でもマレーシア社会全体でも幅広い層の支持を得ている。1981~2003年の長期政権で目覚ましい経済発展を成し遂げたこと、そして2018年の総選挙でスキャンダルまみれのナジブ(UMNO所属)を倒して首相に返り咲いたことへの評価は今も高い。
「マハティールは非常に老練な政治家だ」と、マラヤ大学のアワン・アズマン・アワン・パウィ准教授は言う。「彼は意のままに状況を操作できる。UMNOが政権奪還のために今回の騒動を仕組んだ可能性は否定できないが、もしそうだとすれば欲張り過ぎたのかもしれない」