中国を笑えない、新型ウイルスで試される先進国の危機対応能力
The West Is About to Fail the Coronavirus Test
エボラ流行時の検疫・隔離政策を検証した報告書は、何より重要なのは、どんな政策であれ、恐怖ではなく科学的根拠に基づいて行うことだと指摘する。
だが今、恐怖は医療ばかりか各国政府の手足も縛っている。世界のあちこちで、恐怖をあおるプロパガンダがまかり通っている。国際協調を泥棒呼ばわりするデマゴーグ(扇動政治家)が熱狂的に支持され、極右のポピュリスト政党が台頭している。そんななかでは、各国政府がパンデミックを封じ込めるために手を携えて協力するのは難しい。新型ウイルスは中国かアメリカが製造した兵器だ、という陰謀説まで流布されている。
このままでは世界は、パンデミック対策に不可欠な国際協力体制が無残に砕け散るさまを目の当たりにすることになるだろう。その一例が、日本からタイまで複数の港に入港を拒否されたクルーズ船「ウエステルダム」だ。普段は人権を重視している国でさえ、感染症となると平気で人道に背を向ける判断を下すことが明らかになったのだ。
恐怖が対策を妨げる
理屈の上では、アメリカは新型ウイルスにうまく対処できるはずだ。米疾病対策センター(CDC)はアメリカ人が最も信頼する連邦機関の1つ。政府機関を信頼する人々はその機関の言葉を信じて正しい行動をする。それが、感染症対策を成功に導くのだ。
2014年にはアメリカでもエボラの感染者が出た。リベリアから渡米後に発症したトーマス・エリック・ダンカンはテキサス州ダラスの病院で治療を受けたが死亡。彼の治療に当たった2人の看護師がエボラに感染したことがわかると、全米に激震が走った。パニックが広がるなか、西アフリカのエボラ感染地域からの入国禁止を求める声が一気に高まった。
共和党はもちろんのこと、民主党の一部議員も入国制限に踏み切るよう政府に猛烈な圧力をかけたが、当時のバラク・オバマ大統領は集団ヒステリーに屈しなかった。「基本的な事実を思い出してほしい。世界のある地域をまるごと封鎖する試みは、たとえ可能だとしても、状況の悪化をもたらすだけだ」
イスラム教徒の入国を禁じ、国境の壁建設を目指し、不法移民を収容所に入れる今のドナルド・トランプ大統領は、パニックを沈静化するより、煽るほうが得意な指導者といえるだろう。トランプの下でパンデミックが起きればどうなるか。トランプ政権の判断力と統治能力が試されることになる。