最新記事

中国

国民の命は二の次か? 武漢パンデミックを後追いする日本

2020年2月24日(月)09時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

――クルーズ船内の感染予防が不十分だったのではないかとの疑問が出されている。今回のオペレーションの最優先の目的は3700名の乗客乗員の中に何名いるかわからぬ保菌者が入国し国内で感染が広がることを阻止する事だ。これには成功した!(午後10:03  2020年2月20日)

ここに日本政府の思惑が滲み出ているように思う。

乗客の中には多くの日本人がいるが、それは「日本国民」の中に数えず、「日本政府の責任」で患者が増えなければいいという考え方は「人命軽視」以外の何ものでもない。

ダイヤモンド・プリンセス号は長崎で建造され、日本発着のクルーズ旅行に就航している大型客船だ。イギリスP&O社が所有し、アメリカに本拠地を置くカーニバル・コーポレーションの傘下にある。カーニバル・コーポレーションは世界最大のクルーズ客船の運営会社で、2011年データでは市場占有率49.2%という圧倒的力を持っている。

となると、責任の所在がどの国にあるのかという問題も出て来るだろう。

クルーズ船が港で隔離されると、その分だけ関連会社は損をし続けることになる。しかし乗客を下船させてしまえば、客船関連会社の責任ではなくなるので、所有&運営会社はアメリカ政府を説得して、無為無策で不透明な日本政府に圧力をかけた可能性もなくはない。そこでクルーズ船内で集団感染させてしまった日本政府は慌てて乗客を下船させたのではないのか。

ジャーナリストの田原総一朗氏は筆者との対談(『激突!遠藤vs.田原 日中と習近平国賓』所収)で、「日本はアメリカとも中国とも同じ距離を取って、その中間にいるから素晴らしいのだ」として「習近平の国賓来日は大賛成だ!」と豪語した。それが今般の新型肺炎の水際対策失敗とクルーズ船の失策の両方と重なって見えてならないのである。

田原氏は自民党の二階幹事長にも習近平の国賓招聘を推薦したのだという。

自由ではあるかもしれないが、本来、政府に対して中立の立場にあるはずの「ジャーナリスト」が与党要人と親しくして政権礼賛の声しか発しないという「日本の民主主義とジャーナリストの在り方」を深く考えさせる発言だった。

詳細はパトリオットTVでも論じた。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務省、銀行規制でより大きな役割担う=ベッセント

ビジネス

独VW、第1四半期EV販売が欧州で倍増 中国は3割

ワールド

米下院、判事の権限制限法案を可決 相次ぐ差し止め命

ワールド

豪政府、中国との協力拒否 米関税対応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 5
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    毛が「紫色」に染まった子犬...救出後に明かされたあ…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 10
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中