最新記事

新型コロナウイルス

新型肺炎で中国の調査報道は蘇るか

2020年2月13日(木)18時00分
林毅

──時が過ぎ現在は調査報道に限らず、SNSに開設したアカウントからのコンテンツ発信を行う「自媒体」と呼ばれる形が中国では非常にポピュラーになっている。

自媒体自身が何を志向するか以前に、それらが開設されるSNSプラットフォームの多くはアクセス数を稼ぎ投資を集め株価を上げる事で成り立っていることを忘れてはならない。そうしたルールで運営される場の中で、自媒体もまた集めたアクセス数をマネタイズし、収入としている。

ページビューと収入が強くリンクする中でのコンテンツ作りは、どのようにクリックやシェアしてもらうかに腐心せざるを得ない。そしてそうしたリアクションを促すために手っ取り早いのが怒りや失望といった激しい感情を強く煽り立てるコンテンツに仕立てることだ。だからフェイクニュースやタイトルでの「釣り」が繰り返されるようになる。いまの中国で刺激的なタイトルと「中国のここがすごい、アメリカは中国に比べてここがダメ」というような愛国主義的な自尊心をくすぐる空疎な文章がペアになった記事が蔓延するのはこうした背景による。「アテンション・エコノミー」の暗い側面だと言えるだろう。

もう1つ、自媒体そのものとは直接関連しないが、何をするにもスマホというひとつのデバイスを通して行われるようになった情報環境も実は隠れた大きな問題のひとつだ。真面目なニュースも笑える動画もすべて同じ小さな画面で見るようになり、頭が切り替わらない。そうするとより刺激が強いものに引き付けられてしまうというのは人間の性質として仕方のない面もある。またスマホは長文を読むのに適していないという点もまじめなコンテンツには不利だ。

──どうすればその状況は改善しうるのか。

悪しき「アテンション・エコノミー」のループから抜け出すためには広告に頼らず、きちんとした形でコンテンツに対価が支払われる仕組みの整備が不可欠だ。そうすれば書き手側は「釣れるタイトルを考える」といった本質的でない作業から解放され、もっと記事そのもののクオリティをあげることに集中できる。

ただ実際のところせっかくペイウォール(有料制)を設けてもその中身を勝手にそのままコピーされてしまうといった残念なことも往々にして起こる。また中国ではよほどのブランド力を持った例外を除き、基本的にいちいち個別のアプリを使わずSNSを通じて記事を読むことが多い。だから既存メディアでは大手の「財新」くらいしか有料化に踏み切れていない。

そうした状況や中国の習慣を考えると、今後は「微信(WeChat)」や(ニュースアグリゲーションアプリ大手の)「今日頭条(Toutiao)」がマネタイズ支援のための仕組みを導入すれば突破口になるかもしれない。良質の記事が正当に評価され、読者が増え、最終的には記者やメディアの懐が潤う。そうした良性の循環が生まれることを願っている。

LinYi-Profile_small.jpg[筆者]
林毅
ライター・研究者
広義のジャーナリズムやプロパガンダをテーマに研究を行う。
Twitter -> @Linyi_China
Blog -> 辺境通信

20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権の退職勧奨、連邦政府職員4万人超が受け

ビジネス

米国株式市場=まちまち、ダウ125ドル安 決算や米

ビジネス

トランプ関税でインフレ0.8%ポイント上昇も=米ボ

ワールド

米政権、環境保護庁職員100人超を休職扱いに 司法
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 3
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮兵が拘束される衝撃シーン ウクライナ報道機関が公開
  • 4
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 8
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 9
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 10
    スーパーモデルのジゼル・ブンチェン「マタニティヌ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 6
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 7
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中