最新記事

仮想通貨ウォーズ

仮想通貨ウォーズの勝者はリブラか中国か――経済の未来を決する頂上決戦の行方

THE RACE IS ON

2020年1月25日(土)17時30分
カーク・フィリップス(公認会計士)

多様な通貨が共存する未来

SHCにはリブラにはない利点がある。SHCの発行母体は規制当局なので、誰かから認可を受ける必要がない。普通なら民間企業や開発者の後を政府や当局が追い掛けるのが常だが、今回は当局が自分たちのCBDCやSHCを先に世に出すために、意図的にリブラを引きずり下ろすこともあり得る。

ビットコインは世界中から相応の規制を受けてきた。例えば、マネーロンダリングを監視する金融活動作業部会(FATF)は19年、既存の金融機関に適用されている「トラベル・ルール」(取引の際に金融サービス提供者の間で顧客情報を共有する決まり)を仮想通貨サービスの提供者にも適用することにした。

FATFが特に懸念するのが各種のステーブルコインだ。全ての暗号通貨とデジタル資産(CBDC、SHC、CSCなど)が同じ規制の対象になるだろう。CBDCは既にFATFルールに準拠している。通貨の流れを完全に把握できることは中央銀行にとってもメリットなのだ。

規制面での摩擦も少ないCBDCは「通貨戦争」で優位に立てる可能性が高い。ブロックチェーンや暗号通貨の仕組みはさまざまだ。デジタル人民元は暗号通貨ではないと論じる人もいる。技術的な差異は別として、暗号通貨の1つが覇者になるのか、複数の暗号通貨が勝利を分け合うのか、予想は難しい。

いずれにせよ、一国が基軸通貨の地位を享受する時代は終わりに近づいている。一極支配体制が長く続き、革新を怠れば、世界の流れから置き去りにされかねない。

ただそれより、複数の通貨が共存し、別々の役割を果たすような形が生まれるなら望ましいかもしれない。ビットコインは地政学的な中央銀行モデルの対極にある。数学理論を基に発行限度額を設けることで価値の裏付けとし、法定通貨の変動をヘッジするという完全に独立した金融エコシステムだ。

中央銀行が廃れることはないだろう。だが、より有用な形態へと変化するのではないか。デジタル人民元が世界初のCBDCとなり、他国がこれに続き、それらがSHCや「法定通貨バスケット連動型のステーブルコイン」に進化していくかもしれない。

仮にリブラが発行されなくても、類似の試みがそれに取って代わるはずだ。巨大IT企業は法定通貨バスケット連動型、あるいはCBDCに1対1で連動するステーブルコインを発行するかもしれない。

暗号通貨革命以前の金融の世界には、基軸通貨としては事実上1つの選択肢しかなかった。規制が整うまでには紆余曲折があるだろう。だが、多様な通貨が共存する未来には多くの選択肢が生まれるはずだ。

<本誌2019年12月10日号 「仮想通貨ウォーズ」特集より>

【参考記事】中国がデジタル人民元を発行する日は近い
【参考記事】決済の本丸を目指すフェイスブックの仮想通貨「リブラ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中