仮想通貨ウォーズの勝者はリブラか中国か――経済の未来を決する頂上決戦の行方
THE RACE IS ON
リブラの価値は法定通貨のバスケットに連動するから、若干の変動はある。しかし準備資産は元本保証の銀行預金や主要国の国債などで運用されるから安全で、しかも時間がたてば利息が付く。
しかしリブラ協会の決定で、米ドルが他の通貨より高い評価を受けなかったら、金融市場におけるドルの支配的な地位は脅かされる可能性がある。米議会や規制当局が懸念するのもこの点だ。
リブラは、メンバー企業の業態や所在地を分散し、通貨バスケットの構成に変化を付けるといった工夫でリスクを減らそうとしている。バスケット割合は、リブラのトークン所有者にとって最適な配分になるように定期的に再構成される予定であり、米ドルが世界的な優位性を維持するために特別扱いされることはないはずだ。
しかしザッカーバーグはこの件について「私はリブラ協会を代弁することはできないが、アメリカ政府が米ドルを主体にせよという規制を課すことは完全に妥当だと思う」と心にもないことを述べ、「規制当局の承認なしにリブラを立ち上げることはできない」とまで言った。
ドルが主要通貨でなくなる日
しかし米規制当局がドルの優位性を確保しようとしても、不利な戦いは避けられない。リブラ協会の全会員に、米ドルの割合を人為的に50%に維持することを認めさせる必要があり、他の法定通貨は「二級市民」の立場に追いやられてしまう。
また当局によるリブラの「承認」プロセスには時間がかかり、仮想通貨としての確立が、デジタル人民元のようなCBCDや他の競合通貨に先を越される可能性がある。JPモルガン・プライベート・バンクは今年7月、顧客メモでこの状況をこうまとめた。
「米ドルはほぼ1世紀にわたり世界の主要な準備通貨だった。だがわれわれはドルが世界の主要通貨としての地位を失う可能性があると考える(中期的には下落する可能性がある)。それは構造的な理由と周期的な障害のためだ」
ドルが決済に使われる世界の計算単位になっているからこそ、アメリカは自国通貨で輸入品を購入し、債券を発行し、それでも永続的に赤字を垂れ流すことができる。これをフランスの元財務大臣バレリー・デスタンは「法外な特権」と呼んだ。