最新記事

仮想通貨ウォーズ

仮想通貨ウォーズの勝者はリブラか中国か――経済の未来を決する頂上決戦の行方

THE RACE IS ON

2020年1月25日(土)17時30分
カーク・フィリップス(公認会計士)

アメリカ政府にとっては別の懸念もある。リブラは世界のマネーサプライのかなりの部分を閉じ込めることができるため、独占的な支配を何としても守ろうとする中央銀行から実質的にいくらかの支配力を奪い取ることができる。

ウォルマートやアリババなどの民間企業が発行を検討するコーポレート・ステーブルコイン(CSC)にも同じ力があるかもしれない。例えばウォルマートが自社コインを人民元に連動させた場合、アメリカの利用者は間接的に人民元を使う形になるから中国に有利となり、米ドルは弱体化する。

中央銀行の領域外でステーブルコインが作られるということは、将来考え得るどのシナリオにおいても、国の法定通貨の強さをプラスとマイナスのどちらの方向にも変える力がある。

19年8月、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、世界の準備通貨である米ドルが世界的な金融リスクを高める理由を説明し、「米経済の動向は為替レートに影響を与え、それが世界に大きな波及効果をもたらし得る」と述べた。

彼はそして、中央銀行の連合がデジタル通貨を発行する可能性を示唆した。「そのような新しい合成覇権通貨(SHC)が、中央銀行型デジタル通貨のネットワークを通じて、公共セクターから提供されることが最善かどうかは未解決の問題だ。SHCは世界貿易に対する米ドルの支配的な力を弱める可能性がある」

中国はデジタル人民元を全力で推進している。世界で最初に単一の中央銀行から発行されるデジタル通貨が、新しい世界準備通貨になるかどうかは分からない。しかし中国は何年もかけてそれを研究してきた。

中国人民銀行のデジタル通貨研究所は、18年に深圳金融科技有限公司を設立し、デジタル通貨の発行を準備している。必要な特許も大量に取得済みだ。「事実上すでにキャッシュレス社会の中国がデジタル通貨を発行するのは時間の問題だ。

CBDCかCSCか、その両方になるかは分からないが、リブラより先に発行される可能性は十分にある」と、フィンテック企業コンステレーションのニコラス・クラペルスは言う。デジタル人民元がSHC、言うなれば「法定通貨バスケットに連動するステーブルコイン」の一角を占めることを目指して、中国は開発競争の先頭を走っているという可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に

ビジネス

トランプ氏、財務長官に投資家ベッセント氏指名 減税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中