仮想通貨ウォーズの勝者はリブラか中国か――経済の未来を決する頂上決戦の行方
THE RACE IS ON
発端は謎の人物の完璧な論文
本来的に非営利のビットコインに加えて、それなりに利息も付く企業型や安心が売りの政府系CBDCなど、仮想通貨の世界ではさまざまなシステムが覇権を争っている。仮想通貨時代の幕を開けたのは正体不明のサトシ・ナカモトという人物だ。
「ビットコイン:P2P電子通貨システム」という論文を、彼が暗号技術の利用推進メーリングリストに投稿したのは11年前のこと。その日(2008年10月31日)は多くの人によって、仮想通貨誕生の日として記憶されている。
その論文では、完璧なまでに数学的に構築され、かつ中央銀行の介入を排除した地球規模の通貨システムが論じられていた。おかげで人類は2つの大切な贈り物をもらった。ブロックチェーンという技術、そしてそれを初めて利用したビットコインという存在だ。
ビットコインは会社ではなく、経営者も従業員も顧客もいない新たなパラダイムだ。難解なので誤解されやすく、否定的に報じられもするが、それも時代の先を行けばこそ。オープンソースで誰もが利用でき、開発にも管理にも加われる。
ビットコインに次ぐ代替デジタル通貨は11年頃に登場した。最初期のもの(ネームコインやライトコインなど)はビットコインのコードを利用していた。オープンソース故にブロックチェーン技術を使ったサービスは爆発的に増えた。
そのタイプは、大きく分けて公開型と会員制がある。また会員制にはプライベート型とコンソーシアム型がある。公開型との決定的な違いは、アクセスを承認する見張り役の存在だ。生態系として均衡が取れているか、安全性が確保されているかを調べるには、個々のブロックチェーンの特徴をよく理解する必要がある。
金融機関や各国政府、中央銀行、IT企業、機関投資家などもブロックチェーンに投資している。IBMやマイクロソフト、J・P・モルガン、ウォルマート、デロイト、アリババも参入している。資金移動の手間を減らし、数十億ドルの費用を削減するためにブロックチェーンの技術が有効と判断されている証しだ。
ブロックチェーンもコンピューター上にのみ存在する仮想通貨も、今は黎明期にあり、金融システム全体の改革に挑もうとしている。しかし普及がなかなか進まないのは、法定通貨との関係で価値が乱高下しやすいからだ。
一方、円や米ドルなどの法定通貨と連動したステーブルコインと呼ばれる仮想通貨もあり、こちらの価値は比較的安定しているので、新旧の金融システムをつなぐ存在となり得る。
ステーブルコインには、法定通貨に対して1対1の比率でペグ(固定)されたもの、金相場に裏打ちされたもの、さまざまな法定通貨のバスケット型、アルゴリズム型、担保型などがある。初期のステーブルコイン(テザーやトゥルーUSDなど)は新興企業が発行したものだが、そこへ大企業が参入してくると、当然のことながら各国の中央銀行や規制当局との間で軋轢が生じる。
現にフェイスブックがリブラの構想を発表し、それがステーブルコインの一種であることが分かると、アメリカの規制当局は直ちに疑念を表明し、グローバル金融システムに対するリスク評価の必要ありとして導入延期を迫った。
中央銀行の枠組みを揺さぶる可能性は、ビットコインのほうが高い。それでも11年前に生まれたビットコインに比べ、まだ生まれてもいないリブラに対する圧力が急に強まったのは、それが世界中に何十億ものユーザーを抱えるフェイスブックのプロジェクトだからだ。