最新記事

仮想通貨ウォーズ

仮想通貨ウォーズの勝者はリブラか中国か――経済の未来を決する頂上決戦の行方

THE RACE IS ON

2020年1月25日(土)17時30分
カーク・フィリップス(公認会計士)

mag20191210-facebook.jpg

米下院の公聴会に出席したフェイスブックのザッカーバーグCEO CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

発端は謎の人物の完璧な論文

本来的に非営利のビットコインに加えて、それなりに利息も付く企業型や安心が売りの政府系CBDCなど、仮想通貨の世界ではさまざまなシステムが覇権を争っている。仮想通貨時代の幕を開けたのは正体不明のサトシ・ナカモトという人物だ。

「ビットコイン:P2P電子通貨システム」という論文を、彼が暗号技術の利用推進メーリングリストに投稿したのは11年前のこと。その日(2008年10月31日)は多くの人によって、仮想通貨誕生の日として記憶されている。

その論文では、完璧なまでに数学的に構築され、かつ中央銀行の介入を排除した地球規模の通貨システムが論じられていた。おかげで人類は2つの大切な贈り物をもらった。ブロックチェーンという技術、そしてそれを初めて利用したビットコインという存在だ。

ビットコインは会社ではなく、経営者も従業員も顧客もいない新たなパラダイムだ。難解なので誤解されやすく、否定的に報じられもするが、それも時代の先を行けばこそ。オープンソースで誰もが利用でき、開発にも管理にも加われる。

ビットコインに次ぐ代替デジタル通貨は11年頃に登場した。最初期のもの(ネームコインやライトコインなど)はビットコインのコードを利用していた。オープンソース故にブロックチェーン技術を使ったサービスは爆発的に増えた。

そのタイプは、大きく分けて公開型と会員制がある。また会員制にはプライベート型とコンソーシアム型がある。公開型との決定的な違いは、アクセスを承認する見張り役の存在だ。生態系として均衡が取れているか、安全性が確保されているかを調べるには、個々のブロックチェーンの特徴をよく理解する必要がある。

金融機関や各国政府、中央銀行、IT企業、機関投資家などもブロックチェーンに投資している。IBMやマイクロソフト、J・P・モルガン、ウォルマート、デロイト、アリババも参入している。資金移動の手間を減らし、数十億ドルの費用を削減するためにブロックチェーンの技術が有効と判断されている証しだ。

ブロックチェーンもコンピューター上にのみ存在する仮想通貨も、今は黎明期にあり、金融システム全体の改革に挑もうとしている。しかし普及がなかなか進まないのは、法定通貨との関係で価値が乱高下しやすいからだ。

一方、円や米ドルなどの法定通貨と連動したステーブルコインと呼ばれる仮想通貨もあり、こちらの価値は比較的安定しているので、新旧の金融システムをつなぐ存在となり得る。

ステーブルコインには、法定通貨に対して1対1の比率でペグ(固定)されたもの、金相場に裏打ちされたもの、さまざまな法定通貨のバスケット型、アルゴリズム型、担保型などがある。初期のステーブルコイン(テザーやトゥルーUSDなど)は新興企業が発行したものだが、そこへ大企業が参入してくると、当然のことながら各国の中央銀行や規制当局との間で軋轢が生じる。

現にフェイスブックがリブラの構想を発表し、それがステーブルコインの一種であることが分かると、アメリカの規制当局は直ちに疑念を表明し、グローバル金融システムに対するリスク評価の必要ありとして導入延期を迫った。

中央銀行の枠組みを揺さぶる可能性は、ビットコインのほうが高い。それでも11年前に生まれたビットコインに比べ、まだ生まれてもいないリブラに対する圧力が急に強まったのは、それが世界中に何十億ものユーザーを抱えるフェイスブックのプロジェクトだからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中