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北朝鮮「イラン司令官殺害、衝撃だ」北朝鮮国内で不安拡散......米メディア報道
新年に入って平壌市民の最大の関心事はイラン革命防衛隊司令官が米軍ドローンの攻撃で死亡した事件 KCNA-REUTERS
<平壌市民が今回の事件に騒然としているのは、言うまでもなく「次はわが国ではないか」と心配しているから>
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、北朝鮮の首都・平壌の市民たちは今、イラクで発生した米国によるイラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊・ソレイマニ司令官殺害の報に衝撃を受けているという。
平壌市の幹部消息筋はRFAに対し、「最近、平壌の住民は、外部からもたらされた衝撃的なニュースにざわめいている。イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が米国の無人攻撃機による空襲で標的殺害されたというニュースが住民の中で急速に広がっている」と語っている。
「次はわが国」
北朝鮮メディアが、海外のニュースを詳細に報じることはきわめて少ない。一般国民はインターネットにアクセスすることもできない。
それでも平壌は、外国公館や貿易機関が集中しているため、少ないながらもインターネットにアクセスできる人々がおり、出張で海外に行き来する幹部も多い。そのため、海外の重大ニュースはクチコミで市民の間に広がることも多く、「新年に入ってからの平壌市民の最大の関心事は、イラン革命防衛隊司令官が米国の無人機攻撃で死亡した事件」だとこの消息筋は強調している。
さらに、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は6日付で、ソレイマニ氏殺害に初めて言及した。発生から3日での報道は異例の早さにも思えるが、北朝鮮メディアはもともと、中東情勢については比較的詳細に報道する傾向が見られる。
北朝鮮はかつて、中東戦争に空軍を派遣してエジプトやシリアに加勢、イスラエル軍と戦った歴史がある上に、イランやシリアとは現在も友好関係にある。また、米国が中東で戦乱に巻き込まれれば、朝鮮半島への対応は「手薄」になるのが必至で、北朝鮮がその点を注視しているのは間違いない。
<参考記事:第4次中東戦争が勃発、北朝鮮空軍とイスラエルF4戦闘機の死闘>
もっとも労働新聞の記事は、この件を巡って中露の外相が4日に電話会談を行い、米国を非難したことを伝える間接的な報道で、自国の立場を反映した論評は避けている。同紙は8日付で続報を出したが、こちらも同様だ。イランとは友好国だが、金正恩党委員長とトランプ米大統領がともに親密な関係をアピールしてきた経緯もあり、事件に対する立場表明を避けたと見られる。
一方、平壌市民が今回の事件に騒然とするのは言うまでもなく、「次はわが国ではないか」と心配しているからだろう。
RFAは、ある平壌市民の次のような言葉を伝えている。
「イランはわか国より経済的にも軍事的にもより発展し、特にミサイルなどに対する防空システムも整備された国として知られているが、米国の無人機空襲に無防備にやられたという事実が衝撃をもって受け止められている」
ソレイマニ氏殺害の現場はイラクであり、その点でこのコメントには事実誤認が見られるが、自国の国防力に対するなかなかシビアな見方が出ていて興味深い。
<参考記事:北朝鮮空軍「エジプト極秘派兵」はイスラエルに見破られていた>
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。