習近平の成績表:毛沢東以来最強の指導者、国家分断の懸念もあるが国内世論の支持は強い
中国の在外外交官は、こうした国の野望を背景に自己主張を強めている。新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港のデモへの対応に関する批判に対し、一部の外交官は無遠慮なほど正面から自国の立場を擁護するようになった。
習自身はツイッターのアカウントを持っていないが、中国外務省は10月初めに報道官のアカウントを開設。トランプを思わせる不機嫌な調子で、トランプと米政府を批判することもある。
中国政府が新疆で運営する収容施設の実態も、この1年ほどの間に明らかになってきた。元収容者(大半がイスラム教徒のウイグル人)の証言によれば、身体的虐待や思想改造が行われているらしい。
中国当局はテロ対策が目的の「職業訓練」だと主張する。しかし人権侵害を裏付ける内部文書が先頃公開され、実態が明らかになった。
新疆弾圧の真の目的は何か。「習については分からないことが多い。トランプと違って、ツイートで主張を伝えるわけでもない」と、ラトローブ大学(オーストラリア)のジェームズ・ライボルド准教授(中国史)は言う。「中国の当局者や知識人の間には、国家の分断を懸念する声も出ている。旧ソ連には崩壊を食い止められる人物がいなかったと、習自身も言っている」
米中貿易戦争では、双方の経済に悪影響が出ている。トランプは最近、貿易戦争による損失はアメリカより中国のほうがはるかに大きいと発言し、自分よりも習のほうが「ディールを望んでいる」と語った。
アメリカ側は中国に経済の構造改革も迫っている。だがこの1年半、習は辛抱強さを見せてきた。「中国は自国のほうに分があると感じている」と、オバマ前米政権でアジア政策特別顧問を務めたエバン・メディロスは言う。
「中国の夢」が近づいた
米中貿易戦争の中で中国の内需は減速しており、景気循環も心配な段階に差し掛かっている。過去30年、中国のGDPは年平均で約9.4%伸びてきた。だが今年の第3四半期は、前年同期比で6%増にとどまっている。1992年の四半期統計開始以来、最低の数字だ。
「チーム習」には数々の問題に対処する能力があるのだろうか。長期的には、トランプの政策が中国を利する可能性はあるかもしれない。
「トランプは中国指導部を不安定化させた」と、習に関する著書もあるロウイー研究所(シドニー)のリチャード・マグレガー上級研究員は言う。「どうすればいいのか、彼らは分からない状況だ」
ただ中国指導部にとって、国民の支持のほうが国外での評判より重要度が高い。絶対的指導者という習のイメージは、ナショナリズムに傾く国内世論には受けがいい。国際的影響力の拡大と庶民的なカリスマ性が相まって、「習親分」は自身が提唱する「中国の夢」の実現に近づいている。
習はトランプから、ちょっとした援護射撃ももらった。トランプの政策は、中国を再び偉大な国にする手助けをするかもしれない。
<本誌2019年12月24日号「首脳の成績表」特集より>
【参考記事】トランプの成績表:サイボーグ超えの破壊力で自国の評判を落としたが...
【参考記事】安倍晋三の成績表:景気刺激策、対米対中外交、防衛力強化......もしかして史上最高の首相?
2019年12月31日/2020年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2020」特集。米大統領選トランプ再選の可能性、「見えない」日本外交の処方箋、中国・インド経済の急成長の終焉など、12の論点から無秩序化する世界を読み解く年末の大合併号です。