ホラーをハッピーエンドで封じようとして......『シャイニング』の続編はコケた
Pleasing Two Masters
ダンは惨劇が起きたホテルを再訪し、過去の亡霊と対決する (c) 2019 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
<原作者のキングとオリジナル版監督キューブリックのどちらも喜ばせられない『ドクター・スリープ』>
ハッピーエンドになるかどうかは、どこで物語を終わらせるかで決まる――そう豪語したのは巨匠オーソン・ウェルズ。だがシリーズ物が席巻する今の映画界では、どんな幸せな結末も長くは続かない。
ホラー映画の金字塔『シャイニング』(1980年)はダニー少年が母ウェンディと共に、狂気と酒にむしばまれた父から命からがら逃げる場面で終わる。観客は安堵したが、ハッピーエンドとは言い難い。夫に惨殺されかけたウェンディの心の傷は深いだろうし、ダニーも容易に立ち直れるはずがないように見えた。
立ち直れなかったのは、原作者のスティーブン・キングも同じ。キングがスタンリー・キューブリック監督の映画版を嫌ったのは有名な話で、90年代に自分でテレビドラマ版を制作したほどだ。
だから、キングによる続編『ドクター・スリープ』を映画化するに当たり、マイク・フラナガン監督は難題に直面した。キングの原作に忠実でありながら、キューブリックの映画版と調和する作品に仕上げ、映画版を嫌うキングと映画版のファンの両方を喜ばせなくてはならない。
『ドクター・スリープ』はある意味、そのどちらもやらなかった。映画『シャイニング』を愛する人々にしてみれば、続編は緊迫感が薄く、説明が過剰だ。
『シャイニング』は先住民の墓の上に立つホテルの邪悪な力が災いしたという設定だったが、続編にはローズ・ザ・ハット(レベッカ・ファーガソン)という悪役が登場する。
ローズ率いる「真結族(トゥルー・ノット)」は、ダニーのように特殊な力を持つ子供をさらって拷問し、生気を吸い取る不死身の集団だ。
ハッピーエンドの裏側で
惨劇から40年。ダニー改めダン(ユアン・マクレガー)は米東部の田舎でアルコール依存症を克服しつつある。しかしあの恐怖体験を境にして、彼の心は無残なまでに壊れた。
真結族にも悩みがある。このところ子供から吸い取れる生気の量がどんどん減っているのだ(携帯電話のせいだろうと、真結族の1人は言う)。
真結族と『シャイニング』の結び付きが分かるのは物語の終盤、ダンが特殊な能力を持つ少女アブラ(カイリー・カラン)と共に惨劇の舞台だったホテルに乗り込んでからだ。ダンはホテルで真結族と対決し、過去の悪霊と戦う。