ラグビーの歴史・経済・未来・課題──今、歴史的転換点を迎えている
THE FUTURE OF RUGBY
グローバル化とプロ化(商業化)にはリスクも伴う。試合が以前にも増して利益を生むようになったことで、選手に求められる肉体的な強さもレベルアップ。それに伴い、選手が深刻なけがを負う危険性も高まっている。
ワールドラグビーでは肩より上へのタックルなどの危険行為を禁止し、脳震盪についても明確なガイドラインを設けている。反則は迅速に罰せられ、今回のW杯でも、10月15日の試合でアメリカ選手の頭を蹴ったトンガのパウラ・ヌガウアモには、すぐに7週間の出場停止処分が下された。審判が慎重過ぎるという不満の声もあるが、ワールドラグビーは方針を変えるつもりはないという。
このようにさまざまな問題は抱えているが、それでも世界的にラグビーに衰えの兆しはない。W杯は世界で大きな話題になっているし、選手たちにとっては今後のキャリアの可能性が開けるチャンスも秘めている。
ラグビーに携わっている人々は、世界各地で政治的・社会的な緊張や怒りが渦巻いているなか、W杯がラグビーの裾野を広げる格好のチャンスだと考えている。「多様性の受け入れ、規律の尊重といった素晴らしい精神がラグビーにはある」とRUNYのケネディは言う。「試合では相手をたたきのめすが、その後には笑い合い、ジョークを言い合ってビールを飲みに行く」
今回のW杯でもその精神を象徴するような場面があった。カナダのジョシュ・ラーセンが試合後に対戦相手の南アフリカのロッカールームを訪れ、レッドカードになった危険なタックルを謝罪したのだ。
試合は南アフリカが勝ったが、ここでもまたラグビーの基本的な価値観がそれ以上の勝利を収めた。「プロ化が進んでも、そこのところは変わらない」とケネディは言う。
ラグビーは変わった。しかしラグビーは変わらないのだ。
<2019年10月29日号(10月23日発売)「躍進のラグビー」特集より>
【参考記事】ラグビー場に旭日旗はいらない
10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!