最新記事

躍進のラグビー

ラグビーの歴史・経済・未来・課題──今、歴史的転換点を迎えている

THE FUTURE OF RUGBY

2019年11月1日(金)17時15分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

ラグビー選手の賃金格差問題

それから20年以上たった今も、ラグビー選手の値付けには混乱が見られるし、平たく言えば露骨な賃金格差が残っている。

アメリカの一流選手なら年俸は7万ドルくらいだ。2018年に神戸製鋼コベルコ・スティーラーズを日本のトップ・リーグ王者に導いたニュージーランド出身のダン・カーターは、フランスリーグのラシン92に復帰して掛け持ちでプレーすれば年間200万ドルは稼げるはずだったと伝えられる。サッカー界で最も稼いでいるリオネル・メッシ(アルゼンチン)の1億1100万ドルには遠く及ばないが、日本代表選手の日当約1万円に比べたら桁違いだ。

magSR191101_rugby5.jpg

「高給取り」のダン・カーター FAR EAST PRESS/AFLO

南米コロンビアでは、女子のプロ選手に対して政府が月に約800ドルを支給する。コロンビア・ラグビー協会のアンドレス・ゴメス会長によると、まだプロ化していない男子選手の場合、練習と大会参加に割く時間については政府が給料を補塡している。

選手が強くなると運営側との摩擦が表面化するのはスポーツ界の常識。ラグビーもそうで、プロ化論争たけなわの頃、当時のイングランド・ラグビー協会のダドリー・ウッド事務局長が「ラグビーは娯楽であり、個人が余暇に行うもので、金銭目的ではない」と豪語すると、当時のイングランド代表のウィル・カーリング主将は57人で構成する協会事務局をこう批判した。適切にプロ化すれば、「くそじじい57人はお払い箱だ」。

そして1995年8月26日、ラグビーは正式にプロ化された。現在はワールドラグビーが各国の協会を取り仕切る立場にある。今年のW杯の前には、代表資格のない選手を予選に出場させたとしてルーマニアとベルギー、スペインに失格の処分を科した。

独立調査委員会が調べたところ、その3カ国は今大会の予選を兼ねたラグビー・ヨーロッパ選手権で、以前に別の国の代表として出場した経験のある選手を7〜9試合に出場させていた。これで3カ国全ての成績が減点され、結果として浮上したロシア代表が2回目のW杯進出を果たした。

「(ルーマニアにとっては)悲痛なこと」だとワールドラグビーのミュールホファーは言う。「彼らは当然がっかりした。だがラグビー界には競技場の内外を問わずレフェリーの判断を受け入れるという大切な文化がある」

【参考記事】写真特集:オールブラックスの変わらぬ誇り

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国輸入博、米出展企業は貿易戦争の行方を楽観視

ビジネス

豪CBA、第1四半期は2%増益 住宅ローンのシェア

ワールド

イラン、IAEAの核施設視察受け入れ テヘランの研

ワールド

タイ軍、カンボジアとの停戦合意「停止」へ=最高司令
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中