最新記事

躍進のラグビー

ラグビーの歴史・経済・未来・課題──今、歴史的転換点を迎えている

THE FUTURE OF RUGBY

2019年11月1日(金)17時15分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

magSR191101_rugby4.jpg

岩手・釜石のW杯スタジアムは地域密着型 WARREN LITTLE-WORLD RUGBY/GETTY IMAGES

スポーツマーケティング会社レピュコムによると、ラグビーW杯のテレビ視聴者数は2011年大会から2015年大会で48%増となり、今大会、日本ではスコットランド戦勝利の瞬間視聴率が53.7%を記録した。また2015年大会では27カ国で放送試合数が増えた。特に顕著なのは今年のW杯開催国・日本とブラジル(2016年夏のリオ五輪で7人制ラグビーを初めて採用した)、そして中国だ。アジア全体でも生中継の視聴者数は2011年大会比で221%増。伝統のあるヨーロッパでも75%増だった。

各国の代表チームはテレビでも稼いでいる。南半球のトップ3(南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア)は1995年に、ニューズ・コーポレーションと5億5500万ドルの放映権契約を締結。イングランドは1996年に英衛星放送大手BスカイBと単独で1億ドル以上の契約を結んだ。

放映権で巨額な資金が動く国と言えばアメリカだが、MLR(米メジャーリーグ・ラグビー)は苦戦している。参加チームの多くは生き残りのために地元のテレビ局に放映権を売っているが、MLRコミッショナーのディーン・ハウズは「全国放送の契約が欲しいし、もっと有利な条件を獲得しなければ」と意気込む。現在はCBSが31試合中13試合を全国放送する契約をMLRと交わしている。AT&Tスポーツ・ネットワークも17試合、スポーツ専門のESPNは18試合の放映権をそれぞれ買っている。

大手ネットワークの参入により、ラグビーをよく知る昔ながらの地方局は脇へ追いやられることになった。やむを得ない、と言うのはMLRのラグビー・ユナイテッド・ニューヨーク(RUNY)のCEOジェームズ・ケネディだ。彼に言わせれば、ESPNが全て放映してくれればいいというのが本音だ。「もう料理はたっぷりある。あとはテーブルセッティングができればいい」のだ。

ただしケネディは、アメリカで圧倒的な人気を誇るカレッジフットボールやNFLと競合できるとは思っていない。既に週末のテレビ番組表はアメリカン・フットボールの試合でほとんど埋め尽くされているからだ。

MLR内部にも、このままだとリーグは崩壊しかねないと危惧する声がある。だが成長期の苦しみなら、1990年代後半に世界の主要なクラブチームも味わっている。当時の推定で、欧州勢の大手は3000万ドル近くの損失を出していたという。

「プロ化した当時は西部開拓時代のようだった」と、元イングランド代表のロブ・アンドリューは後にガーディアン紙に語っている。「分かってはいたが、いざ発表されると、みんな慌てた。どの選手も契約などしていなかったから、あちこちから誘いがあった。私たちにいくら払えばいいのか、誰も見当がつかない状況だった」

【参考記事】日本が強くなったのはラグビーがグローバル化したからだ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中