最新記事

少数民族弾圧

ウイグル民族の文化が地上から消される

Cultural Genocide in Xinjiang

2019年10月1日(火)18時20分
水谷尚子(明治大学准教授、中国現代史研究者)

新疆全域のウイグル語出版は、現在壊滅状態になっている。新疆人民出版社の公式サイトを見る限り、同出版社は2017年以降、ウイグル語書籍を1冊も出していない。売ることが可能な書籍もなく、読もうとする人も街にはいないのだ。

本を出版しようにも、そもそも出版関係者が次々に強制収容されている。カシュガル地域で政治学習を担当する政府職員のRFAへの証言では、「カシュガルウイグル出版社は計14人(うち5人が女性)が拘束され、幹部経験のある高齢者まで強制収容所送りとなっている」という。同出版社の職員49人のうち、漢人幹部4人を除いた「少数民族」職員の3割が拘束されていることになる。

この政府職員は、「カシュガルウイグル出版社が過去に出版した600冊以上の書籍、新疆人民出版社が過去に出版した1000冊以上の書籍が有害書籍に仕分けされ、その著者や編集者、刊行に関わった全関係者が拘束された」とも証言する。

カシュガルウイグル出版社の元編集者で作家のハジ・ミリザヒッド・ケリミ(81)は、2018年に拘束され懲役11年の実刑が確定した。彼は自治区が主催する「天山文学賞」を2回受賞し、「21世紀のウイグル詩学に最も貢献した文化人」に選ばれた人物だが、11世紀の歴史人物ユースフ・ハース・ハージブについて描いた歴史小説が問題視された。同社編集者で女流詩人のチメングリ・アウット(45)も2018年に拘束された。

知識人根絶やしの効果

出版だけではなく、ウイグル語メディアや記者も「消滅」している。自治区西部イリで発行されていた「夕刊イリ」ウイグル語版とカザフ語版は、自治区政府の命令で今年から発行停止になった。評論家でジャーナリストのヤルクン・ルーズ(53)には「国家分裂主義者」として無期懲役が言い渡された。著名ジャーナリストで詩人でもあったワヒティジャン・オスマン(56)も消息不明になっている。長年にわたり小・中・高校のウイグル語教科書の編集も担当し、若いウイグル人なら誰もが彼の文章を読んだことがある、という人物だ。

学術界にも弾圧は広がっている。ニューヨーク・タイムズ紙によると、新疆大学人類学研究所教授ラヒレ・ダウットが北京で行方不明になったのは2017年12月。ダウットは北京師範大学で博士号を取得したウイグル文化研究の第一人者で、日本人研究者の菅原純と中央ユーラシアのイスラム聖者廟に関する研究書を出版した。新疆大学ではダウット含め、少なくとも56人の「少数民族」出身者が強制収容されていると言われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

キヤノン、通期業績を下方修正 為替と米関税政策の影

ビジネス

ニデック、26年3月期は8.2%の営業増益見込む 

ビジネス

午後3時のドルは142円後半、日米財務相会談後の急

ワールド

焦点:米鉄鋼産業の復活へ、鍵はトランプ関税ではなく
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中