最新記事

少数民族弾圧

ウイグル民族の文化が地上から消される

Cultural Genocide in Xinjiang

2019年10月1日(火)18時20分
水谷尚子(明治大学准教授、中国現代史研究者)

magw191001_Uyghur2.jpg

タシポラット・ティップ COURTESY OF TASHPOLAT TEYIP FAMILY

中国政府系シンクタンクの新疆社会科学院も例外ではない。200人を超える職員の中で、ウイグル人研究者は数人しかいなかったが、そのほとんど(在外ウイグル人組織が把握しているだけで5人)が拘束されている、と伝えられている。

著名なコンピュータープログラマーのアリム・エヘット(46)も行方不明だ。北京理工大学を卒業後、イースト・ロンドン大学に留学。ウイグル語・カザフ語・キルギス語のフォントや文章入力用キーボード、校正ツール、電子辞書を開発し、ウイグル人社会のIT化に最も貢献した人物として知られる。

誰もがウイグル人に生きる希望を与え、ウイグル人の文化が消滅しないよう先頭に立って尽力してきた人々だ。共産党の厳しい検閲をクリアして出版されてきたものが一転して有害書籍とされ、生涯かけて研究や表現活動をしてきた人々が、国家分裂主義者として死刑判決を受ける。極端な思想も、当局への抵抗意識も持っていないからこそ活躍の場を与えられていた知識人らが、「両面人」のレッテルを貼られ拘束されている。

「兄のような知識人を一掃すれば、再び育てるまでに30年から40年はかかる。逆に言えば、自治区は30年間静かになる」と、タシポラット・ティップの弟で現在はアメリカに暮らすヌーリ・ティップはかつて語った。少数民族文化を「抹殺」しようとした文化大革命から既に半世紀を経ていながら、共産党は当時と同じ過ちを繰り返している。

共産党によって押し込められた「ウイグル社会の宝」は今、劣悪な強制収容所の中で消えようとしている。

<本誌2019年10月1日号掲載>

【関連記事】ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった
【関連記事】ウイグル人活動家の母親を「人質」に取る、中国の卑劣な懐柔作戦

20191008issue_cover200.jpg
※10月8日号(10月1日発売)は、「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集。消費税率アップで経済は悪化する? 年金減額で未来の暮らしはどうなる? 賃貸、分譲、戸建て......住宅に正解はある? 投資はそもそも万人がすべきもの? キャッシュレスはどう利用するのが正しい? 増税の今だからこそ知っておきたい経済知識を得られる特集です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中