六本木・銀座は基地の街だった──売春、賭博、闇取引が横行した時代
焼け残った目ぼしいビルのあれこれが、大抵は、僕たちは淋しく、聞こえてもこない、アメリキャン・ジャズのメロディをあれこれと想像して、出入りするあちらの兵隊さん、日本の娘さんの足どりに、うたた敗戦の現実を、身に沁みこませているのだが、歌え! 太陽と朗らかには、ちょいとなれない。
早く云えば、みんな食うための、生活のための接客婦であり、ダンサアなんですよ......(略)[踊っているのは]失業した女工さん、収入のあてのない若い未亡人、生活苦のショップ・ギャアル(山本武利ほか編『占領期雑誌資料大系 大衆文化編1』所収、岩波書店)(156ページより)
これは当時の雑誌「新生活」(二号、一九四六年二月発行、新生活社)に掲載された漫画家・富田英三のエッセイだが、あの頃の空気感を見事に言い表している。
いずれにしても、租界と化した戦後ゼロ年の東京の真実を映し出した書籍としての本書の価値は大きい。
東京五輪後の日本がどうなってしまうのかという不安感が世間を覆う今だからこそ、なおさら読んでみる価値はある......とは、あまりにこじつけがすぎるであろうか。
『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』
貴志謙介 著
NHK出版
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」
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