対イラン代理戦争も辞さないネタニヤフの危険な火遊び
Netanyahu’s Dangerous Game
新たな戦争を回避したいネタニヤフも、ヒズボラとの直接対立は避けてきた。しかし総選挙を数週間後に控えた8月24日、ネタニヤフはヒズボラとの暗黙の了解を破った。
全面対決と紙一重の戦略
この日、イスラエルはシリアの首都ダマスカスの南東に位置するアクラバの建物を空爆。イランの革命防衛隊などがここから無人機を使って攻撃を仕掛けようとしていたからだと主張した。翌25日には、レバノンの首都ベイルートにあるヒズボラの施設に無人機が飛来して爆発する事態が発生した。
イスラエル政府はベイルートの攻撃についてはコメントしていないが、同国のハーレツ紙は「複数の無人機がヒズボラのミサイル計画の重要拠点を攻撃した」と報じた。ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララは、攻撃はイスラエルの仕業だと非難。「国境地帯のイスラエル兵たちは今夜から、われわれの報復に警戒せよ」と宣言した。
今回の攻撃は限定的で、双方が戦争の拡大を避けたがっているようだった。イスラエルはレバノン南部に向けて砲弾約100発を発射したが、全て空き地に着弾し、死傷者はいなかった。
だがナスララは、ベイルート攻撃への報復を誓っている。それが引き金となって紛争が拡大し、ネタニヤフの再選のもくろみが崩れ、駐イラク米軍を危険にさらすかもしれない。
米政府当局者によると、マイク・ポンペオ国務長官はネタニヤフとレバノンのサード・ハリリ首相に自制を求めた。だがネタニヤフはイスラエル軍がシリアを攻撃したと発表して事態を悪化させたと、歴代国務長官の中東顧問を務めたアーロン・デービッド・ミラーは言う。
「安全保障を売りものにするネタニヤフのイメージは確かに強化されるだろう」と、ミラーは言う。「しかし再選のためのイメージ戦略は、ヒズボラとの全面対決と紙一重だ。ヒズボラの攻撃でイスラエル人の死者が出た場合、ネタニヤフは責任を問われる。そして、ヒズボラとの戦いをエスカレートさせる」
8月25日の3度目の攻撃はイラク国内を標的にし、在イラク米軍にも影響を与えた。無人機がシリアとの国境近くのイラク国内で輸送隊を攻撃し、親イラン派民兵組織「人民動員隊」の指揮官などが死亡した。
米軍に矛先が向かう恐れ
かつてネタニヤフは、イスラエルを攻撃するために領土の使用を許可した全ての国に苦しみを与えると警告した。「誰かがなんじを殺すために立ち上がったら、先にその人物を殺せ」と、彼はユダヤ教聖典の有名な一節を引用してツイートした。