最新記事

BOOKS

丸山ゴンザレスだからこそ書けた世界の裏社会ルール

2019年9月4日(水)16時15分
印南敦史(作家、書評家)


 まず、彼らの「縄張り」だが、国境のようにフェンスやゲートが設けられるといった明確な線引きがあるのではなく、組織の影響力が及ぶ範囲のことをいう。最小単位は建物だけのこともある。大きくなると都市全体や複数都市を支配下に置いている。おおむね組織の数だけ縄張りが存在している。縄張りを持たない組織は存在しえない。(59ページより)

この記述を読んで思い出したのは、ロサンゼルスのストリート・ギャングの抗争を描いた映画、デニス・ホッパー監督作品『Colors(邦題:カラーズ/天使の消えた街)』のテーマ曲だった。

ラッパーのアイス・Tによるその楽曲「Colors」のリリック(歌詞)にも、"So let me define. My territory; don't cross the line(俺の縄張りははっきりさせてもらう この線を越えるな)"というフレーズが登場するのである。

そんなところからも推測できるが、著者によれば縄張りとは、犯罪組織が所属する集団を食わせるための経済基盤。そのエリア内でならカツアゲ、強盗、麻薬の取引などをしても怒られることはなく、敵対的に動くとしたら警察だけだという。

裏社会には裏社会なりの秩序が存在しており、そこで大きな意味を持つのが縄張り。だからお互いの領域を侵さないことは最も基本的なことであり、最重要なルールでもあるというのである。

さて、裏社会に共通する考え方として、縄張りに次いで紹介されているのは「ボスへの忠誠(裏切りの禁止)」である。これは縄張り意識よりもっと内向きで、説明しづらい、面倒で危ない考え方でもあるのだそうだ。


 忠誠心であり、裏切りの禁止。これは表裏の関係である。裏切られないという関係性は、そのまま忠誠心のある上下関係になるからだ。
 どんな組織でも忠誠心の植えつけ方は2通りある。
 ゆっくり植えつけるか、強烈に植えつけるかだ。(63ページより)

「ゆっくり」のほうは、いわゆる「餌付け」。仕事もなく学校にも行けないが、見どころのありそうな子供に食事を与え、小間使いを頼み、労働の対価にお金を支払う。徐々に仕事のランクも上げていき、段階的に兵士(ソルジャー)へと育て上げていく。幼少期から思春期まで長い時間をかけて餌付けされた子供は、ボスに対して絶対の忠誠を示すようになるということだ。

さらに、忠誠心を強烈に植えつけさせるため、決して裏切らせないような通過儀礼を経験させる。すなわち殺人やその手伝いである。トドメを刺したり、遺体の処理を手伝わせることで共犯意識を生み出し、裏切りを防止するわけだ。もちろんそれは、「裏切ったらこうなる」という現実を突きつけることにもなる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中