インドネシア首都移転のあまりに甘い皮算用
ジョコ大統領(中央)はジャカルタからの首都移転計画を力強く発表したが SIGID KURNIAWAN-ANTRA FOTO-REUTERS
<ジャカルタからボルネオ島の未開発地域に移すというが世界の先例を見れば計画はプラスにならない>
公害や交通渋滞が深刻で、地盤沈下が急速に進むインドネシアの首都ジャカルタ。ジョコ大統領は先頃、問題だらけのこの街の首都機能を、ボルネオ(カリマンタン)島の未開発地域に移転する計画を発表した。
ジャカルタからの首都移転は、長期的に見れば理にかなっている。気候変動の影響をもろに受けそうな都市であることを考えても、当然の流れだろう。
だがボルネオに首都を築くために新たな開発を行ったのでは、温暖化対策にプラスにならない。既にボルネオでは、森林破壊が大きな懸念を生んでいる。
不安材料はほかにもある。約3000万人が暮らす大都市圏から、ほとんど何もない場所に首都機能を移転することが、世界で4番目に人口が多い国家の運営に影響を及ぼさないはずはない。インドネシアはこの点を十分に考慮しているだろうか。
新首都の建設は、政変を機に新政府が旧体制を脱する象徴として行われることが多い。首都をゼロから造るのは名案に思えるが、政府の腐敗体質が一緒に「移転」してくることもある。
ジョコがこの計画を遂行するなら、首都を新たに建設してきた他国の足跡をたどることになる。過去1世紀を振り返ると、そうした例は人口の多い途上国にほぼ限られる。
隔絶した首都=悪政?
トルコは1923年の独立時に首都をコンスタンティノープル(現イスタンブール)からアンカラに移した。パキスタンはカラチからイスラマバードに、ブラジルはリオデジャネイロからブラジリアに、ナイジェリアの軍事政権は1991年にラゴスからアブジャに首都を移した。
最近で最も悪名高い例は2006年のミャンマー(ビルマ)かもしれない。当時の軍事政権はヤンゴン(ラングーン)の全ての省庁を、人のいない巨大都市にほとんど一夜で移転させた。ネピドーと名付けられた新首都は、当時の独裁者タン・シュエが占星術師の助言で選んだ場所に、何年もかけて極秘裏に建設が進められたといわれる。
これらの国の場合は、政府自体が民主的ではなかった。首都移転という大事業は、民主国家には容易にできないのかもしれない。韓国は2002年、ソウル南方の世宗特別自治市への首都移転を試みたが、憲法裁判所の違憲判決によって計画は頓挫し、一部政府機関の移転にとどまった。