eスポーツは賞金300万ドルの巨大市場に成長中
The Rise of eSports
ニューヨークで開催 されたフォートナイ ト・ワールドカップ USA TODAY SPORTSーREUTERS
<世界に3億8000万人の観戦者を擁する巨大市場で、トッププレーヤーやチームの収入も膨れ上がっている>
ペンシルベニア州在住の16歳、「ブーガ」ことカイル・ギアースドーフはこの夏、「フォートナイト・ワールドカップ」で世界チャンピオン(ソロ部門)に輝いた。優勝賞金は......なんと300万ドルに上った。
フォートナイト・ワールドカップは、コンピューターゲームの『フォートナイト・バトルロイヤル』をプレーする腕前を競うeスポーツ大会だ。オンラインで実施された予選には、4000万人以上のプレーヤーが参加し、7月末にニューヨークで行われた決勝では2万人近い観客が会場のアーサー・アッシュ・スタジアムに詰め掛けた。
『フォートナイト・バトルロイヤル』は、プレーヤーがゲーム内のキャラクターを操作して広大な島でバトルを繰り広げ、最後の1人まで生き残ることを目指すアクションゲーム。世界で推計2億5000万人がプレーしている大人気ゲームだ。
爆発的な人気を背景に、フォートナイト・ワールドカップの賞金総額は3000万ドルを突破。ギアースドーフが獲得した優勝賞金300万ドルは、eスポーツの大会で1人のプレーヤーが獲得した賞金では史上最高額となる(大会後の8月10日には、嫌がらせの虚偽通報によりギアースドーフの自宅に警官隊が駆け付ける騒動まで起こった)。
eスポーツ市場は、いま急速に拡大している。世界の総人口約77億人のうち、なんらかのコンピューターゲームを楽しんでいる人は約22億人に上る。このうち約3億8000万人がeスポーツを観戦している。「頻繁に」観戦する人が1億6500万人、「たまに」観戦する人が2億1500万人だ。
トップ選手とトップチームの収入が莫大な金額に達していることは不思議でない。フォートナイト・ワールドカップでは、65~128位のプレーヤーでも5万ドルを手にした。
大ヒットゲーム『リーグ・オブ・レジェンズ』のプレーを競う大会「北米リーグ・オブ・レジェンズ・チャンピオンシリーズ」では、新人プレーヤーでも年俸が32万ドルを超えていると、フォーブス誌は報じている。70%以上のプレーヤーは、複数年契約を結んでいるという。
熱狂はどこまでバブルか
ニュースサイトのビジネスインサイダーに昨年掲載された記事によれば、eスポーツのトップチームは年間売り上げが1000万ドルを超えるという。これは、サッカーのスペイン2部リーグのチームに匹敵する金額だ。
賞金が膨れ上がれば、勝利への意欲もさらに高まる。それに伴い、プレーヤーが取り組むトレーニングの内容にも変化が見え始めている。「スポーツ」という名前こそ付いていても、eスポーツのプレーヤーは、ジムでの長時間トレーニングやランニングで体力と持久力を鍛えるわけではない――と思っている人もいるかもしれない。
しかし新世代のプレーヤーたちは、高度な集中力を発揮するために健康の維持が有効だと気付き始めた。最近は資金力の乏しいチームでも、栄養管理や運動によって心身のコンディションを維持することの重要性を認識するようになった。好成績を上げているチームでは、ほかのスポーツで経験を積んできたコーチを雇うケースも出てきている。
今後、eスポーツがビジネスとしてどれくらい成長するかは、さまざまな要因に左右される。エンターテインメント界の潮流や業界のガバナンスの在り方にも影響されるし、政府がゲームを検閲対象にする国が現れればその影響も受ける。
この新しいビジネスを成長させようと思えば、eスポーツビジネスに関わる人たちが消費者をより深く理解し、ビジネス環境の変化に主体的に対応しなくてはならない。そのためには、質の高いデータを持つことが極めて重要だ。
今の状況をバブルと考える業界関係者は少なくない。業界の活況を伝えるデータの信憑性を疑う声も多い。eスポーツ大会の視聴者数がプロアメリカンフットボールのNFLの優勝決定戦スーパーボウルを上回ったという類いの報道も見られるが、懐疑的な声も聞こえてくる。
例えば、プロバスケットボールのNBAのヒューストン・ロケッツでeスポーツ担当副社長を務めるセバスチャン・パク(ロケッツはeスポーツのプロチームも保有している)は、あるイベントでこう語っている。
「その種の記事に記されているデータの半分は、どこから取ってきたのか疑問だ」
業界の健全性を保つ上でも、データの信憑性はおろそかにすべきでない。この点に関しては、1950年代からテレビの視聴率調査を手掛けてきた調査会社のニールセンがeスポーツ分野の調査に本格的に乗り出すとの期待も高まっている。もしそうなれば、eスポーツ業界の信頼性を高める上で大きな一歩になるかもしれない。
Federico Winer, PhD researcher, Loughborough University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
<本誌2019年9月17日号掲載>
※10月1日号(9月25日発売)は、「2020 サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。