児童虐待は検証率「わずか5割」 どうすれば悲劇を断ち切れるのか
Newsweek Japan
<目黒区の結愛ちゃん事件、千葉県野田市の心愛さん事件......刑法犯罪が減少する中、児童虐待など家族内の事件は急増している>
『孤絶――家族内事件』(読売新聞社会部・著、中央公論新社)は、2016年12月から2018年1月までの長期連載となった読売新聞「孤絶・家庭内事件」を元にした書籍。
「まえがき」において著者はまず、事件報道のある"現実"を指摘している。家族内で起きた事件は「事件性」が薄いと判断されがちであるため、報道に際しては多くの死傷者が出たような大事件や大災害、あるいは大型経済事件や著名人が当事者になるような事件が優先されてしまうということである。
刑法にも親族間の特定の犯罪については罰しないという特例があります。これは「法は家庭に入らず」という理念、国家は家庭内の問題には介入しないという考え方からきています。しかし、近年、国や公的機関の不介入と対応の遅れが痛ましい家族内事件に結びつくような事例が相次いでいます。刑法犯罪が毎年減少する中で、家族内の深刻な事件が急増しているのはなぜか。埋もれた事件を掘り起こし、当事者の生の話を聞いて、その疑問に答えていくことには大きな社会的意義があるはずだと私たちは考えました。(2ページより)
こうした考え方に基づき、社会部を中心として社会保障部、国際部、写真部に籍を置く19人もの記者が事件当事者、関係者から話を聞いている。そして、介護問題に焦点を当てた「介護の果て」、障害や引きこもりなどの問題を抱えた子供とその親との関係性を浮き彫りにした「親の苦悩」、孤独死の現実を明らかにした「気づかれぬ死」などの5つのテーマごとに、事件の背景を浮かび上がらせているのである。
当然のことながら、背後関係がどうであれ、それぞれの事件が重たく、そして悲惨だ。そして、そんな中でも特に心を打たれたのは、昨今も大きな話題となっている児童虐待の事例だ。本稿ではその問題をクローズアップしてみたい。
児童虐待による子供の死亡例は、都道府県や政令市など、児童相談所を設置する自治体が2012〜15年度に把握しただけでも255件に上るという。
なぜ子供たちを救えなかったのかを考えるにあたり、欠かせないのは死亡に至った事例の検証である。ところが読売新聞の17年の調査によれば、225件のうち、自治体が検証を実施していたのはわずか5割だというのだから驚かされる。
もちろん厚生労働省は、児相を設置する全69自治体に全ての死亡事例を検証するよう求めてはいる。しかし、警察など関係機関との情報共有の難しさ、あるいは職員の不足などから検証が進んでいないというのである。
以前、『ルポ 児童相談所:一時保護所から考える子ども支援』を取り上げた際、「児童相談所=悪」というイメージが肥大化しすぎなのではないかと書いたことがある(児童相談所=悪なのか? 知られざる一時保護所の実態)。基本的には憎しみを持って子供と向き合っている職員などおらず、各人がギリギリの状態で子供たちと向き合っているということだ。