フランス美食外交に潜む深謀遠慮──異色外交官が明かす食と政治の深い関係とは
「このすぐ隣にポンピドゥー元大統領が住んでいたのですよ」。年代物であろう調度品に囲まれた瀟洒なサロンに腰を下ろし、フォールは微笑む。
「(パリ・フード・フォーラムの共同議長に)アラン・デュカスが選ばれたのは当然でしょう。エマニュエル・マクロン大統領が17年、訪仏したドナルド・トランプ米大統領との会食に選んだのは、エッフェル塔内の彼のレストランだった。気候変動サミットの晩餐会でも料理を担当した。そして、このフォーラムは国際会議であり、外交と直結している。政府の内情に通じ、国際的なパイプを持つ人物として、私が選ばれたのだと思う」
人口100億人時代の食
フォールは76年に外務省に入省した。アメリカやスペインなどで外交官としてのキャリアを積んだ後、90年から10年間ほどは外交の世界を離れ、民間の保険会社社長や、ミシュランガイドと並ぶ仏レストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』社長を務めたが、00年、ジャック・シラク元大統領の呼びかけで外交の世界に復帰。駐メキシコ大使や駐日大使を歴任し、外務官僚トップにも登り詰めた。
15年からはフランス観光開発機構理事長としてフランス料理の魅力を世界に発信し、16年にはアルゴリズムに基づく世界レストランランキング『ラ・リスト』を創設した。外交官と美食家という、ふたつの顔を併せ持つ人物だ。
「1830年に地球上の人口は10億人だった。1960年には30億人になり、現在70億人。そして、2050年には100億人になる。これは尋常ではない。100億人にどうやって食糧を提供するのか。どんな食べ物を、どのように調達するのか。極めて複雑な問題で、今、対処しないといけない。同様に、化学製品を使わない安全で健康的な食品の大切さをトップ層が繰り返し訴える必要がある。パリ・フード・フォーラムを、ダボス会議のような位置づけにしたい。ダボスが経済なら、パリは食糧、健康そして地球について話し合う場だ」