ブロックチェーン技術で無国籍状態のロヒンギャ難民を救え
身分証のないロヒンギャは受け入れ国で闇経済に頼らざるを得ない ADNAN ABIDIーREUTERS
<身分証がないイスラム系少数民族にデジタルIDを与え金融や教育、医療サービスを利用可能に>
マレーシアの首都クアラルンプールにあるビルの2階。壁の3つの時計はそれぞれマレーシア、サウジアラビア、そしてミャンマー(ビルマ)西部ラカイン州の現地時間を示している。
ここはミャンマー政府の弾圧を逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャが運営するTV局、ロヒンギャ・ビジョン(Rビジョン)の拠点だ。12年の設立以来、彼らの故郷ラカイン州のロヒンギャの危機に焦点を当てており、近年は増え続ける難民の問題に注目。ニュースルームは世界各地のロヒンギャの結束と士気高揚を目指す活動の拠点でもある。
マレーシア在住のロヒンギャのまとめ役であるムハンマド・ヌールは17年、ロヒンギャ・プロジェクトを開始。国籍を持たず公的なID(身分証)のないロヒンギャが受け入れ国の金融制度を利用できない状況を解決するのが狙いだ。「改ざん困難で、非中央集権型の、何者も停止できないブロックチェーンでデジタルIDをつくりたい」
仏教徒が多数派のミャンマーで、イスラム系のロヒンギャは政府に迫害され続け、1982年制定の国籍法によって大半が無国籍状態に陥っている。
ヌールらは(政府など中央当局ではなくコンピューターネットワークに情報を保管する)ブロックチェーン技術を利用。手始めにマレーシア、バングラデシュ、サウジアラビアの闇経済に頼らざるを得ない同胞難民たちにデジタルIDを提供し、金融、教育、医療などのサービスを使えるようにするという。
報酬をトークンで支払い
過去数年、ブロックチェーン技術で人道上の問題を解決しようと、マイクロソフトやアクセンチュアなどのグローバル企業からスタートアップまで、多くの企業がデジタルIDに参入。「収集された難民のデータを独裁国家が悪用する恐れがある」と懸念する専門家もいる。
ロヒンギャ・プロジェクトはロヒンギャ1000人を対象とする第1弾のデジタルIDカード試用計画を19年末まで延期した。「デジタルIDとブロックチェーンは非常に急速に進化している。セキュリティーとプライバシー保護の要件を全て満たす必要がある。確実にデータが安全でなければならない」と、ヌールは語る。
同プロジェクトは今年1月、複数のNGOによるデジタルID推進計画の参加団体に選ばれた。7月にはマレーシアで、社会貢献活動をしたロヒンギャの報酬をトークンで支払う新たな試みを実施。トークンはラップトップPCなどと交換できるが現状では換金はできないため、「ブロックチェーンを利用しているが仮想通貨ではない」と、ヌールは強調する。