抗生物質が効く時代はあとわずか......医療を追い詰める耐性菌に反撃せよ
WE SHOULD ALL BE SCARED
ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(ボストン)は耐性菌の感染者に緊急措置として抗体と抗生物質を混ぜて注射したと報告したが、結果は明らかにしていない。これ以外には、抗体を用いた実験的治療の報告はないに等しい。また耐性ブドウ球菌などに効くワクチンを開発する動きもあるが、実用化には遠い。
「抗生物質によらない治療は研究が始まったばかり。気長に取り組んでいかなければならない」と、コネティカット大学医療センター感染症予防科のデービッド・バナクは言う。
事態は切迫しているのに、なぜ有望な対策をもっと速やかに試験し、実用化しようとしないのか。
資金がないからだ、とタフツ医療センターのバウチャーは言う。政府は研究に巨額を投じているが、研究を医薬品の製造につなげる民間投資が足りていない。何百万回も処方されるとも1錠当たり何万ドルという値段が付くとも思えない新薬の製造に、製薬会社は消極的だ。バウチャーに言わせれば「製薬の経済モデルが破綻している」。
耐性菌が相手でなければ、抗生物質には文字どおり奇跡的な効き目がある。しかし、それに頼り過ぎたことに問題の一端はある。何十年も前から、中耳炎や咽頭炎にも抗生物質が使われてきた。手術後の感染予防にも使われている。その間に細菌は突然変異を起こし、薬剤耐性を獲得してしまった。そうした細菌の拡散と感染を防ぐには、抗生物質だけに頼らない全体的なアプローチが求められる。
複数の方面からのアプローチが必要だと、専門家も強調する。迅速に細菌を特定して隔離などの予防策を取り、特定の細菌をターゲットにした薬物を投与できれば、感染症の集団発生を防ぎ、遅らせることもできよう。そこで求められるのが、患者とその周辺にいる細菌の遺伝子を速やかに、低価格で特定する検査手法の開発だ。
「病院に来る人を片っ端から遺伝子レベルでスクリーニングするわけにはいかない。干し草の中で針を探すような無駄骨だ」とシェノイは言う。「ハイリスクな患者を早めに選別できれば、適切な処置ができる」
病院で耐性菌をより効果的に封じ込める方法も研究されている。アメリカの病院では、患者のおよそ5%が院内感染の被害に遭う。病院は免疫力の低下した病人が集まる場所なのだから、驚くには当たらない。医師や看護師はさまざまな傷に指や器具で触れ、その器具は院内で使い回されている。
細菌の付着しない素材を開発
院内感染が増えた背景には、高齢者の増加と医療の進歩がある。ジョンズ・ホプキンズのゼニルマンが独自に調査したところ、患者の半数以上がペースメーカーや人工歯根など何らかの医療器具を体に埋め込んでいた。こうした「インプラント」は感染症の温床になりやすい。