『NHKから国民を守る党』はなぜ議席を得たのか?
彼らは、おおむね2013年以降は徐々にだが確実に忘れ去られた存在であった。しかし、後年立花氏に「拾われた」のである。それはおそらく、立花氏がそのNHK呪詛というオピニオンを発露する道具として使い続けた「ネット動画の世界」でかつて目立っていたからだ。いや、立花氏が働きかけたのか、候補者から立花氏にコンタクトしたのかは不明だ。が、彼らは「今日的なネット右翼の世界」ですら、ロートルとして記憶の片隅に追いやられていた、「往時のネット右翼たち」であり、ネット右翼の古参兵たちなのである。
先に私は、『NHKから国民を守る党』はネット右翼政党ではない、と書いた。正確に言うと、「その内実は、10年近く前に隆盛したネット右翼の古参兵」である。
しかし、問題は、彼らに1票を、そして1議席を与えたのは、果たしてネット右翼なのか?ということだ。
6)ノリで投票する「政治的非常識層」
繰り返し書いたように、N国が徹頭徹尾主張する「NHKをぶっ壊す」という主張は、すでに「保守派やネット右翼」にとっては古典であり、今さら言われたところで心には響かない。NHKに対する怒りはもはやそんなに無い。よって当然投票にはつながらない。「保守派やネット右翼」は今次順当に自民党と書いたはずだ。
またしても繰り返すように、旧次世代の党と違って、N国は「保守論壇」からも「保守界隈」からもほとんど一切、援護射撃を受けていないのだ。ということは、N国に魅了される人々は何なのかというと、雑駁に言えば「2010年~2011年前後」という、ネット右翼の黄金期に、立花氏をはじめとして彼らを「動画の中で」強烈に記憶していた古参兵が半分とみる。
しかしそれだけでは議席に届かない。もう半分は、N国候補らの政見放送をみて、思想もなく、主義もなく、主張もなく、思慮もなく「あはっ、なんか面白ーい!」という、限りなく無色透明の、「政治的非常識層」である。彼らには右か左か、右翼か左翼かという区別は当てはまらない。
N国党の政見放送を見て、「ただただ爆笑して泡沫と笑う」人々は、少なくとも「政治的常識層」である。泡沫に入れても死に票になるだけで意味がない、という判断ができる時点で政治的常識人だ。そういった人々―つまり、投票所にいるはずの、常識を持った人々が急速に消え去り、あるいは彼らの常識という足腰が急激に萎えた結果こそが、N国の1議席である。