最新記事

米外交

対イラン開戦論の危うい見通し

War with Iran Would Be Worse Than Iraq

2019年5月22日(水)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

制裁の強化でイラン経済が干上がれば、対話に関心を示す可能性はある。それでも首を絞められて、その相手に美辞麗句を並べた親書を送るはずがない。そんなことは不可能だ。

何しろイラン国民の識字率は高い。そして都市部の住民の多くはインターネットや衛星テレビを使っている。もしもイランの指導者がトランプに「素敵な親書」を送れば、国民はすぐにその事実を知る。「アメリカは悪魔」で「トランプは脅威だ」と叫んでいた指導者がアメリカにすり寄ったと知れば、国民はその指導者を信用しなくなる。

ちなみにイランは、バラク・オバマ前米大統領にすり寄ることもなかった。当時のジョン・ケリー米国務長官との核交渉は、穏やかとはいえ実務的に進められ、時には激論もあった。

magw190522_Iran.jpg

イラン国民は指導者の動向を注視している IRANIAN PRESIDENCYーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

それでもトランプが本気でイランの大統領なり外相なりと話したいなら、(たぶん遠回りになるが)実現の道がなくはない。ただし彼らと親友になれるとか、親友のふりをしてもらえると期待するのは大きな間違いだ。

次に開戦論だが、コットン議員らはイラク戦争の教訓を覚えていないものとみえる。

03年にブッシュ政権がイラク侵攻作戦を立案した頃は、誰もが「楽勝」を信じていた。当時のトミー・フランクス米中央軍司令官は、歩兵部隊の配備が間に合わないのを承知で侵攻を3月に前倒しするよう進言していた。猛暑の夏が来る前に米兵を帰還させたいと考えたからだ。その後、米軍はイラクで9回の夏を過ごし、戦死者4424人、負傷者3万1000人以上という犠牲を払わされた。

しかもイランとの戦争はイラクより厳しいものになる。イランの面積はイラクの3.7倍、人口は倍以上。地形的にも平坦なイラクと違って起伏が激しく、山岳地帯が多い。

イラク侵攻時に最も恐れられていたのは、首都バグダッドでの市街戦だった。実際は米軍が到着する前にサダム・フセイン大統領が逃亡し、警察も軍隊も崩壊。支配階級のエリート層も四散したため、杞憂に終わった。

イラン人、特に都市部の住民が現政権を嫌っているのは事実だが、彼らは侵略者を忌み嫌う。かつて民主的に選ばれたモハンマド・モサデク首相がCIAとイギリスの陰謀で倒され、親米の王政が復活した1953年の記憶はまだ生々しい。

だから、彼らが米兵を解放者として歓迎する可能性は低い。おそらく最後は首都テヘラン市内で、長く、血なまぐさい戦いになるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中