最新記事

5G

激化する米中5G戦争 ファーウェイ排除、発端は豪政府のサイバー演習

2019年5月29日(水)15時30分

ファーウェイの反撃

西側諸国とファーウェイの間の緊張が高まる中で昨年末には、ファーウェイ幹部の個人的な問題も表面化した。米国の要請を受け、同社の孟晩舟(メン・ワンツォウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)が12月、カナダのバンクーバー空港で拘束されたのだ。

創業者の娘でもある孟CFOは、国際的な金融機関を欺いたとして米当局に起訴されており、米国への身柄引き渡しを巡り係争中だ。

捜査に詳しい関係者によると、ファーウェイを巡る対立の背景にあるのは米中間の摩擦だけではない。孟氏とファーウェイの活動について米当局は、両国間の貿易戦争が勃発する以前から目を付けていたという。ただ、ここまで激化した対立は、言うまでもなく、地政学的問題の様相を呈している。

ここ数カ月、ファーウェイ排除に向け、米国は同盟諸国に対する働き掛けを強めてきた。米国のゴードン・ソンドランド駐欧州連合(EU)大使は2月にロイターに対し、5Gは社会のあらゆる側面に影響を及ぼす技術だと述べた。その上で、「常識的な判断として、悪質行為を行ってきた勢力に、社会全体の鍵を手渡すべきではない」と強調した。

ファーウェイ機器がスパイに使われたという証拠があるのかという問いに対しては、「機密扱いの証拠がある」と応じた。

ポンペオ米国務長官は3月、「ファーウェイは中国の国有企業で、中国の情報当局と深い関係がある」とさらに踏み込んで発言している。

同社は中国の政府や軍、情報当局のコントロール下にあるとの見方を繰り返し否定してきた。「ポンペオ国務長官は間違っている」との声明を出し、同社は社員が保有していると説明した。

同社は当初、公然と米国などの対応を批判することは控えていたが、次第に対決姿勢を強めている。2月下旬にスペインのバルセロナで開かれたモバイル業界の見本市では、政府や企業にファーウェイ排除を訴える米政府当局者らと、欧州諸国や顧客に安全性を担保するために派遣された同社の幹部らが火花を散らした。

ファーウェイの郭平(グォ・ピン)副会長は講演で、スノーデンNSA元職員が暴露した「プリズム」と呼ぶ米情報収集活動を念頭に、「壁にはプリズムがある。最も信頼できるのは誰か」と揶揄(やゆ)した。聴衆からは笑いが起きた。

欧州通信会社の幹部も米当局者に対し、ファーウェイが安保上のリスクだという決定的証拠を示すよう迫ったという。

米当局者は、決定的な証拠を待ってからでは遅いと反論した。「もし銃から煙が出ているとすれば、すでに撃たれている。弾丸をこめた銃の前で、なぜ並んでいるのか私には分からない」

(Cassell Bryan-Low記者, Colin Packham記者, David Lague記者, Steve Stecklow記者, Jack Stubbs記者、翻訳:石黒里絵、山口香子、編集:下郡美紀)

[キャンベラ 21日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250128issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月28日号(1月21日発売)は「トランプの頭の中」特集。いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ボーイング、人員削減に伴い業務移転か 労組が調査開

ワールド

NZ、海外投資誘致に向け規制緩和 専門部署も設立へ

ワールド

韓国捜査当局、尹大統領を送検 内乱首謀や職権乱用で

ワールド

トランプ政権、司法省キャリア職員約20人配置転換 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中