激化する米中5G戦争 ファーウェイ排除、発端は豪政府のサイバー演習

2019年5月29日(水)15時30分

テクノロジーの脅威

西側諸国は、以前から中国の通信機器に懸念を持ってきた。米下院情報委員会は2012年の報告書で、中国のIT企業が国家安全保障上の脅威になっていると指摘。ファーウェイはこれに反発した。

こうした懸念にもかかわらず、5Gの脅威に対して米政府が対応を始めたのは、つい最近になってからだ。

2018年2月、当時のターンブル豪首相が、ワシントンを訪問。豪情報機関が戦争ゲームを行う前から、IT業界の実業家だったターンブル氏はすでに米国に警告を発していた。5Gには大きなリスクがあり、ファーウェイ対して同盟国が行動することを望んでいた。

「彼は5G通信網がどれほど重要になるかを強調し、われわれが考えるべき安全保障リスクと、それを行う能力や意図、そして強権的法律を持つ国々について警告していた」と、オーストラリアの高官はロイターに述べた。ターンブル前首相の広報担当者は、コメントの求めに応じなかった。

ターンブル氏とそのアドバイザーは、当時のニールセン米国土安全保障長官やロジャースNSA局長ら米政府当局者と会談。中国政府がファーウェイを操る可能性があり、将来的に中国との緊張が高まる場合、このことが脅威となり得るとの考えを伝えた。同会談の内容に詳しい豪州当局者2人がロイターに明かした。

米国側はこの訴えを受け入れたが、世界最大の通信機器メーカーに規制を課すことへの優先順位は低いようだったという。「われわれの懸念は、同じような緊急性で共有されなかった」と豪当局者の1人は話した。

ロジャース氏はコメントの求めに応じなかった。米国土安全保障省はこの会談の詳細に触れなかったが、安全保障上の課題でオーストラリアとは緊密に連携していると述べ、「中国は自国の安全保障上の優先事項のためにサイバー諜報活動を続け、サイバー攻撃能力を強化し続けるだろう」と語った。

5G通信技術によって通信速度と容量の飛躍的な向上が見込まれている。データをダウンロードするスピードは現行ネットワークの100倍となる可能性がある。

それだけではない。このアップグレードによって「スマート冷蔵庫」や自動運転車といった、5G網に接続可能なデバイスが劇的に増える見通しだ。「多数のデバイスを使う人が増えるだけでなく、機器同士、デバイス同士の通信が5Gによって可能になる」とオーストラリアのバージェスASD長官は3月の講演で述べている。

こうした5G通信網によって、敵対的な勢力や組織が、国家やコミュニティーの重要インフラに対してサイバー戦争を仕掛けるための侵入ポイントも大幅に増える。敵対勢力自身が5Gネットワークに機器を提供する場合は、この脅威がさらに増大する、と米当局者は主張する。

ファーウェイは、自社が「機器提供する顧客ネットワークに対して、何らかの形でコントロールすることは全くない」と強調。米豪両政府の主張には根拠がないと一蹴した。

2018年7月、英国もファーウェイに衝撃を与えた。情報機関の高官も参加する英政府の委員会が、同社による国家安全保障上のリスクに対処できるとの十分な確信を持てなくなったと報告したのだ。

この報告によれば、ファーウェイの製品設計プロセスについて同委員会が特定した深刻な問題が、「英通信網の新たなリスクと、リスク低減・管理における長期的な課題を露呈した」という。

同委員会の監督下には、国内で使われているファーウェイ製品の検査を目的に2010年に政府が設置し、同社が資金拠出する研究所がある。当時すでに同社が安保上のリスクとみなされていたためだ。

この報告は「寝耳に水」だった、と米当局者は明かす。これがファーウェイによる5Gリスクについて米国が見解をまとめる際の土台になったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中