激化する米中5G戦争 ファーウェイ排除、発端は豪政府のサイバー演習
重要インフラへの脅威
もしファーウェイが世界の5Gに足場を築けば、中国政府は、重要インフラを攻撃し、同盟国間の共有情報に侵入する、かつてない機会を手中に収めることになる、と米政府は懸念している。これには公共施設や通信網、重要な金融センターに対するサイバー攻撃が含まれる、と西側の安全保障当局の高官は指摘する。
どんな軍事衝突においても、衝突エリアから遠く離れた場所に対して銃弾や爆弾を使わず、封鎖もなく経済的な損害を与え、市民生活を寸断できるこのようなサイバー攻撃は、戦争自体の性質を劇的に変化させることになる。もちろん中国にとっても、米国やその同盟国からの攻撃にさらされることになる。
中国政府は2015年の国防報告書「中国軍事戦略」ですでに、相手国は特定しなかったものの、サイバースパイ攻撃を受けたと主張していた。 米国家安全保障局(NSA)の元職員エドワード・スノーデン氏がリークした同局の書類によると、米国はファーウェイのシステムにハッキングを仕掛けていた、と報じられている。ロイターはこのような攻撃について独自に事実確認ができなかった。
とはいえ、ファーウェイ封じは、米国とその同盟国、特に、機密情報を共有する「ファイブアイズ」に属する英国、カナダ、オーストラリアとニュージーランドにとって、大きな課題となる。
中国深センで1980年代にひっそりと誕生したファーウェイは、世界通信網に深く根を張った巨大テクノロジー企業へと成長し、5Gインフラ構築で主導権を握ろうと目論んでいる。
2018年の売上高が1000億ドル(約11兆円)を超える強大な資金力に加え、技術競争力と中国政府の政治的後ろ盾を持つファーウェイに代わる企業は、世界的に見てもほとんど見当たらない。
「ファーウェイの米国事業を規制しても、米国がより安全になったり、強くなったりすることはない」と同社はロイターに文書でコメントした。そのようなことをしても、「米国の消費者が二流で高価な代替品」しか手に入れられなくなるだけだ、と述べた。
ファーウェイ排除に乗り出す国は、中国からの報復リスクに直面する。
昨年同社を5G通信網から締め出したオーストラリアは、中国向け石炭輸出が中国側の通関手続きの遅延などで滞った。中国外務省は「全ての外国産石炭を平等に扱っている」と声明で主張し、「中国が豪州産石炭を禁輸したと決めつけるのは事実に反する」と反発した。
ファーウェイを巡る対立は、第2次世界大戦後の安全保障体制の基礎であったファイブアイズ内の亀裂も浮き彫りにした。
ポンペオ米国務長官は8日、訪問先のロンドンで、5G通信網へのファーウェイ参入を禁止していない英国に鋭い警告を発した。
「安全性が不十分な状態では、信頼できるネットワークで行われる一定の情報共有を行うことが難しくなる」と長官は述べた。「これはまさに中国の思うつぼだ。西側の同盟を、銃弾や爆弾ではなく、バイトやビットで分断したいと願っているのだ」
74歳になるファーウェイ創業者の任正非(レン・ツェンフェイ)最高経営責任者(CEO)は、中国人民解放軍の出身だ。
「任氏は常に、ファーウェイの品位と独立性を維持してきた」と同社は説明する。「スパイ活動への協力を要請されたことは一度もなく、いかなる状況においてもそのような要請は拒否する」
ファーウェイの徐直軍(エリック・シュー)輪番会長は、いかなる政府に対しても、スパイ活動などを可能にする裏口(バックドア)機能設置を自社製品に認めたことはなく、今後も絶対にないと断言した。
深センにある同社本社でロイターの取材に応じた同会長は、5Gは従来のシステムよりも安全性が高いと述べた。
「中国は、これまで企業や個人に対し、地元の法律に反する方法やバックドア機能を使って国内外のデータや情報、機密情報を集めたり、提供を要請したことはなく、これからもない」と、中国外務省はロイターの問い合わせに対して文書で回答した。
米政府は、不正なバックドアがなくても5Gシステムに大損害を与えることができると主張する。同システムは、サプライヤーが提供するソフトウェア更新に大きく依存するため、こうした5Gネットワークへのアクセスが、悪意あるコード送信に悪用される恐れがある、と米政府は指摘する。
これまでのところ、米政府はファーウェイ機器がスパイ行為に使われたという確かな証拠を公表していない。
5Gの潜在的脅威に対する米政府の対応が遅かったのではないかとの質問に対し、国務省でサイバー政策を担当するロバート・ストレイヤー氏は、米国は以前から中国の通信会社に懸念を抱いてきたが、5G導入が近づいた昨年以降、「同盟国とより緊密に協議するようになった」と、ロイターに語った。ファーウェイを5G通信網から締め出すことは「最終的な目標」だと述べた。