最新記事

宇宙開発

アポロ11号アームストロング船長の知られざる偉業

TOP FLIGHT

2019年4月26日(金)17時30分
ジェームズ・ドノバン(作家)

さらにはテスト飛行で宇宙飛行士3人が立て続けに亡くなる事故があり、有人飛行のコストやリスクを疑問視する声も上がっていた。だからこそ、ジェミニ計画は何としてもスケジュールどおりに進める必要があった。

ところが、実際には大惨事の一歩手前まで行ってしまった。パイロットたちは自分の能力を限界まで発揮して地球に生還した。そしてアームストロングは、この危機からの生還で評価を確立した。彼こそ初めて月面に降り立つ宇宙飛行士にふさわしいと......。

ジェミニ8号のミッションの滑り出しは好調だった。2週間前に機器にいくつか問題が見つかっていたが、66年3月16日午前10時41分に打ち上げ。周回軌道に到達するとアームストロングは無人標的衛星アジェナに接近すべく、推進装置のスイッチを入れた。95分前に打ち上げられたアジェナは、ジェミニをより高い軌道で待ち受けていた。

故障続きだった標的衛星

ジェミニのコンピューターが2機の位置を特定し、移動する曲線を割り出した。打ち上げから6時間もたたないうちに、ジェミニ8号は太陽光を受けて銀色に輝く全長8メートルのアジェナから45メートル離れた位置に停止した。これでランデブーは成功だ。

アジェナに問題がないことを確認した後、アームストロングはアジェナにゆっくりと1メートルまで接近。絶妙なタイミングとソフトな接触が要求されるドッキングに取り掛かった。バドミントンのシャトルに似たジェミニ8号の先端部は、巨大な魔法瓶のようなアジェナにすっぽりはまった。

「管制室、ドッキング終了......実にスムーズだった」。アームストロングはそう告げた。初の宇宙空間でのドッキング成功に、地上の管制センターでは歓声が沸き上がった。

flight02.jpg

空軍機でつくり出した無重力状態の中で宇宙服を着て船外作業の訓練をするスコット NASA

実際、アジェナはNASAにとって頭痛のタネだった。ドッキングを行う予定だった5カ月前のジェミニ6-A号のときは軌道に向かう途中で爆発していた。だから地上に待機する通信係の宇宙飛行士ジム・ラベルはマダガスカルの追跡基地を通じて、ジェミニ8号が通信圏外に入る直前にこう警告した。「アジェナの姿勢制御システムがおかしくなったら......システムを切って、そっちでうまく制御してくれ」

そして通信は途絶えた。アームストロングとスコットは船内のライトをつけ、手引書を取り出してドッキングに伴う作業をやり、システムをチェックした。夜になったので船外はよく見えなかった。さらに2時間ほど作業した後、2人は眠ろうとした。翌日に2時間以上の船外活動をする予定のスコットには睡眠が必要だった。

ドッキング成功から27分後、コントロールパネルを見上げたスコットは機体がゆっくりと、30度の角度で左に回転していることに気付いた。それを聞いたアームストロングは、姿勢制御用推進装置で修正を試みた。回転は止まった。だが、数分後に再び回りだした。

そして起こった想定外の事態

ラベルの助言を思い出したアームストロングは、スコットにアジェナの姿勢制御システムを切らせた。すると回転は止まったが、数分後に再び、今までより高速で回転し始めた。

電気系統の問題を疑ったアームストロングはスコットに、アジェナの電源を入れ直し、再び切るように伝えた。その間、自身は操縦席の姿勢制御装置で機体の動きを安定させようと試みたが、うまくいかない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中