最新記事

ノンフィクション

【実話】東西冷戦の代理戦争の舞台は、動物園だった

2019年3月5日(火)16時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

外国メディアにも取り上げられ、世界的に人気を博したベルリン動物園のスター、ホッキョクグマのクヌートとその飼育員(2007年撮影、クヌートは2011年に死去) Arnd Wiegmann-REUTERS

<娯楽に溢れた現代でも、人は動物園が大好きだ。なかでも「動物フリーク」の市民が多いドイツのベルリンに、かつて2つの動物園があり、2人のカリスマ園長がいた>

2017年に誕生したメスのジャイアントパンダ、シャンシャン(香香)の人気のおかげで、東京・上野動物園の来園者数が大幅に増えているという。ベルリンの動物園でも、昨年12月に生まれたばかりのホッキョクグマの赤ちゃんの愛らしさが話題をさらっている。

これほど娯楽に溢れた現代でも、人は動物園が大好きだ。だがドイツのベルリンは、世界のどの都市と比べても特別に市民が「動物フリーク」なのだという。世界的な人気者になったホッキョクグマのクヌートが2011年に亡くなった際には、動物園の正面入口が花束とカードとぬいぐるみで埋め尽くされたほどだ。

そんなベルリンで、しかも冷戦下の分断された東西ベルリンにおいて、それぞれの町のシンボルになった2つの動物園がある。そこには、ライバル心を剥き出しにして競った2人のカリスマ園長がいた。

『東西ベルリン動物園大戦争』(ヤン・モーンハウプト著、黒鳥英俊監修、赤坂桃子訳、CCCメディアハウス)は、東西の代理戦争の舞台にもなった2つの動物園と、そこで活躍した「動物園人」たちの奮闘を描いたノンフィクションだ。

絶対に負けられない戦いが、そこにあった

物語の主人公は、東西ベルリンにある2つの動物園の、2人の園長。西ベルリンのベルリン動物園園長、ハインツ=ゲオルク・クレースと、東ベルリンのティアパルク(「動物園」の意)園長のハインリヒ・ダーテだ。

2人は共に、ドイツが敗戦国となった後でベルリンにやって来て園長となり、それぞれの動物園のために人生をかけて奔走した。それはまさに、国の威信をかけた戦いでもあった。彼らはゾウや希少動物の数を競い合い、互いに存在感を誇示しようとした。


「どっちかがミニチュアロバを手に入れると、もう片方はポワトゥーロバを購入するといった感じでしたよ」(14ページ)

彼らが躍起になったのには理由がある。2つの動物園は、どちらも市民に愛された娯楽施設であり、町のシンボルでもあったが、それと同時に、2つの異なる社会体制のシンボルでもあったのだ。だからこそ、東ではメガネグマのために秘密警察が金を出し、西では首相自らパンダ獲得に乗り出した。

ドイツ初の動物園という歴史と伝統を持つ西のベルリン動物園(1844年開園)は、熱心な動物収集家だったクレース園長の下、各地から多くの動物をかき集めた。彼はどうしても、東ベルリンのライバル動物園にゾウの数で勝りたかったという。動物園の世界では、ゾウは特別な存在なのだ。

また、当時の西ベルリン市長は、東の動物園に負けたくないというだけの理由で、新しいゾウを入手するための財源を工面した。そうした努力の甲斐あって、ベルリン動物園は、戦時中の空襲による大きな被害を乗り越え、世界中の動物園の中でも最も多くの種が揃う動物園に返り咲いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ハイテク・小売株が大幅安、トランプ関税でコスト増

ビジネス

金融大手、米景気後退リスクの高まりに警鐘 トランプ

ビジネス

米新規失業保険申請6000件減、労働市場の安定継続

ビジネス

NY外為市場・午前=ドル/円6カ月ぶり安値、関税措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中